旦那様になる人。
「はぁぁぁ!? どういうことですか!?」
「結婚すれば他の令嬢たちに虐められるのではないかと思っているようなんだ…」
表立って虐める人…
確かに一人は思い浮かぶけど…他の人はそんなことしないだろう。陰口とかはあるかもしれないけど、貴族でしかも公爵と付き合っているのだから、妬まれることくらい分かっていたことだろうに…
相手の女も相手の女だが、ジェラール様もジェラール様である。
「他にも何か隠していることがあるのではありませんか? そもそもお父様が何も考えずに結婚を良しとするわけがないと思うんですけど…」
昔からあまり口数が多いわけではなかったが、私の結婚相手を決める時は色々調べてくれていたのを知っている。そのおかげで十八歳になるまで婚約者の一人もいないんだけど…。
「実は、五年前に税金の減額申請がされているんだ。過去五年分のデータを調べてみたが、フェザリス領で災害などはなかった。」
「五年前…前フェザリス公爵が亡くなられた頃ですね…。」
お父様が財務局長になったのが三年前。それよりも前に申請されているということは、その前の財務局長が申請を通したということになる。
減額申請は申請してから五年が期限。これは災害から復興までに少なからず五年はかかるだろうという理由からだ。それ以降は三年ごとに再申請が必要になる。
「そうだ。そしてつい先日再申請がきた…それで一体何が起きているのか気になってな。もし、虚偽の申請なら犯罪になる。」
お父様が動くとなると財務局長が来たと警戒されてしまう可能性があるし、弟のサフィールは十五歳でしっかりはしているものの不安が残る。
私が結婚に興味ないのをお父様も分かっているはずだ。
「なるほど…理解いたしました。私にフェザリス領がどのような状態なのか調査してきてほしいということですね。」
「そういうことだ…期間は三年。フェザリス公爵には三年間だけ私の娘が隠れ蓑になることを伝えた。普通だったらここで嫌がるものだが…嫌がりもせず笑いながら助かると言っていたよ。国王陛下にもこの内容は伝えてある。」
国王陛下が関わっている時点で「はい」以外の選択肢はないじゃない。
「はぁぁぁ…分かりました。三年ですね。では…三年経ったらもう結婚しなくてもいいですか?」
私の大事な三年をあげるのだ。その後は好きにさせてほしい。
お父様は少し考えてから、
「わかった…マーガレットが結婚したいと思うまではこちらから結婚の話はしない。それならいいか?」
きっとお父様的には結婚して幸せになってほしいのだろうけど…親不孝な娘でごめんね。孫はサフィールに抱かせてもらってね。
私は笑顔でお父様に「それでお願いいたします。」と伝えた。
結婚式までの動きをお父様と話している間に日が沈み、明るかった空もオレンジ色に染まってきていた。
そして結婚式当日――
「結婚式まで相手に会わないことってあるのね。」
「普通はないと思いますよ。」
普通であれば顔合わせをして、お互いの親に挨拶。その後、婚約披露パーティーなどを行うという流れになるのだが、今回は急だったこともあり、全て省いて、すぐ結婚式をすることになった。
一度くらいはどこかで顔を合わせる機会もあると思っていたけど、ジェラール様は一度も顔を出すことはなく現在に至る…。
そもそも貴方の恋人の我儘でこんなことになっているというのに…一体どんな人が現れるのか…
ちなみにウェディングドレスは私のお店で作ったもの…ではなく既製品である。
ジェラール様に私が商会を立ち上げていることは内緒にしたいためだ。一番はバレると面倒そうというのがあるのだけど…。
「モニカ。ちょっといいこと考えたのだけど…」
「なんでしょうか。なんだか嫌な予感しかしないのですが…」
そう、ここまで顔を合わせていないのだから、ジェラール様も私の顔なんか見たくないはず…それに私の顔も分からないだろう。
だから私とモニカをチェンジしても気づかないのではないだろうか…
「私の代わりにモニカが結婚式に出てくれないかしら……?」
「え? それだけは無理です。」
「って言うのは、冗談よ…。」
そんなに真顔で返さなくてもいいのに、まるで魂が抜け落ちたような、そんな顔をしている。
一応この国一のイケメンと言われている相手だ。普通だったら喜ぶのではないのだろうか。
二人で冗談を言っていると、コツンコツンと廊下を歩いてくる音が聞こえてきたので、私は急いでベールを着けた。
「マーガレット嬢。いるかい?」
声は少し甘い声だろうか…声だけであれば女性にもてそうな…そんな感じがする。
色々知っているから全くもってときめきはないけれど。
「はい、おります。」
モニカが扉を開けると、一人の男性が部屋の中へ入ってきた。




