出発。
ジェラールに手紙を送ってから、特に不審がられることもなく一週間が過ぎた。メイドの仕事も、里帰りしたいと言えば一か月ほどお休みをもらえたし、とてもありがたい。
そんなにもらっていいのだろうかと少し不安に思ったが、私の代わりにスージーが入ってくれたことで大丈夫とのことだった。
そんなスージーは、ここで働き始めてからなぜか離れに泊まっている。私がいない間、離れに明かりが灯るのはよくないのではないかと思ったが、フェザリス公爵邸近くの宿屋も押さえておいているらしい。
さすがはアルヴィエ侯爵家である。抜け目がない。
いつも外に出るときは三つ編みにそばかす、そして眼鏡だから、久しぶりに変装しないで家を出る気がする。
今日は髪を少し巻いて、広めのつばのついた帽子に黄色のワンピースを着た。
「なんだか最近、暗い服ばかり着ていたからか、明るい服を着るのが新鮮ね」
「はい! お義姉様はやっぱり明るい色の方が似合いますね!」
明るい方が……って、なんでスージーがここにいるのか……。
モニカの方を見ると、モニカもなぜいるのかわからないという顔をしている。
「スージー、あなた仕事は……?」
「お仕事ですか!? お任せください! 穴は空けておりませんので」
穴は空けていないって……絶対誰かに任せてきたんだろう。
「はぁ……あなたねぇ……。もしかして別の人に仕事を任せてきたの!? それでスージー……あなたは一緒にフェザリス領に行くということね……」
「はい! そういうことです。絶対別人だとバレることはないと思います! それに……お義姉様と一緒に旅行だなんて光栄ですぅ!!!」
旅行に行くわけじゃないんだけれど……。
とりあえず、モニカとナニカ、それにスージー、ファレノプシス家の護衛三人を連れてフェザリス公爵領を目指すことにした。
フェザリス公爵領は王都から馬車で二日くらいの場所にある。王都からはかなり近い方だろう。ちなみに、ファレノプシス領は五日ほどだ。
ファレノプシス領は遠いけど、その分、海に囲まれていてとても綺麗な所だ。
「フェザリス領と言えば小麦が特産品だったわよね。最近、小麦の生産量はどうなっているのかしら」
「ここ数年ですが、小麦の生産量はこの国一の生産量を誇っていますし、特に災害などの被害は受けておりません」
やはり……。
うちで使うのは小麦ではなく米粉と少し変わった粉を使うため気づかなかったが、災害などがなければ生産量が下がるということはほとんどないだろう。
「そう。そしたら何が原因なのか。邸に着いたら、まずは帳簿を確認しましょう。何かしら見えてくるはずよ。あと、邸を管理しているのは誰かしら。王都には執事すらいなかったし、誰にも聞けなかったのよね」
「ドミニオンさんが言うには、フェザリス領の執事やメイドは辞めさせられていないそうです」
辞めさせられていない……か……。
辞めさせられていないというよりは、フェザリス領に来ないから、そもそも働いている人がいるということすら知らない気がする。
ただ、辞めさせられていないということであれば、帳簿を管理している人がいるはずだ。
この五年で何が起きているのか、真相を掴むチャンスかもしれない……。
「スージー、あなたのことは私の侍女として扱うけどいい? 私はベールを被ったまま人前では外さないから、それだけ頭に入れておいてね」
「もちろんです! これは予行練習ですね!!」
予行練習って、サフィールと結婚したときのということだろうか? 確かに花嫁修業にはもってこいかもしれないわね。
「そうね……予行練習にもなると思うわ。今日からあなたのことは……サーシャと呼ぶわね。ナニカはサーシャのことをお願い」
私にはモニカがついてくれているし、さすがに他所様のご令嬢に何かあっては大変だ。ナニカに任せておけば安心だろう。
「承知いたしました。スージー様はサフィール様の大事なお方……私にお任せください」
大事なお方……あながち間違ってはいないけど、おそらくまだサフィールは自分の気持ちをスージーに伝えていないわ……。
まあ、周りから見たらバレバレなんだけど……だからもう少しそっとしておいてあげてほしいと思うのは姉心というやつだろうか……。
「大事なお方って……恥ずかしいです! 私の一方通行なので、今、攻めて攻めて攻めまくっているんですよ……。お義姉様と本当の姉妹になるためには、手段を選んでいられませんわ!」
スージーの言葉にナニカも唖然としている。
スージーは昔からこういう子だから、私もモニカも見慣れてしまっていて気にならないけど、あまり関わりのない人からすると、かなり変わった子に見えるだろう。
現に今の発言だって……私と姉妹になるためにサフィールと結婚するとしか聞こえなかった……。
なんでも、自分が推したいと思う人と、恋愛好きな人は別らしい。
サフィールは、そういう所も含めて面白くて好きだと言っていたが……。
「ナニカ……スージーはこういう子だから、気にしないでちょうだい」
色々話をして、これからの動きをまとめていると、あっという間に出発の時間になった。
荷物などもあるため、馬車は二台に分かれて行く。
馬車に荷物を積み終わり、護衛を待っていると、前から三人、馬に乗って近づいてくる人影が見える。
そして、その中には小さい頃から何度喧嘩したか分からない、よく見知った男が一人……。
「ディーじゃない。なんでいるのよ! もしかして見送り?」
「マーガレット……。君はもう少し感動の再会を喜ぶべきじゃないか?」
「え? 感動の再会? 誰と誰が……?」
そう……護衛はなぜか、サフィールとディグレッド王太子殿下、そしてスージーの兄クレソンだったのです……。




