新しいメイドがやってきました!
モニカがドミニオンと話ができたことで、状況が少しずつ変わりつつある。
ジェラールにも手紙を送ったら「わかった」とだけ返ってきた。
普通であれば「一か月間、領地に行ってきます」とだけ送れば、「何をしに行くんだ?」とか返ってくるのではないかと思っていたけど、それは杞憂に終わった。
「本当にやましいことはないということなのか……それとも何も知らないということなのか……どちらか分かりにくいわね」
「ドミニオンさんも仰っていましたが、何も知らないのではないでしょうか。それか、領地に行くというのが、もしかしたら里帰りと勘違いしている可能性もあるかと……」
「その可能性……大いにあるわね……」
メイドの仕事を始めてからというもの、公爵らしい姿は一度として見ておらず、甘えん坊のお坊ちゃまの姿ばかり見ているからか、余計にそう感じるのかもしれないけれど……。
もし、里帰りだと思っていてくれているのであれば、それはそれで越したことがない。
下手に領地を管理している人たちに話してしまっていれば、重要な情報を隠されてしまう可能性もあるからだ。ありのままを見るには、お忍びで行くことに限る。
朝から色々考えていると出勤時刻になりそうだったので、急いで離れを出た。
本邸に着くと、物置部屋へ直行する。
「おはようございまぁす!」
皆、眠たそうにしながらも「おはよう」と返してくれるあたり、メイドたちはいい人ばかりだ。
毎日通いで休みもほとんどなし、一人で全て担当していれば、それはそれは疲れもたまってくるというもの……。
さらにアニエスのお小言も面倒だし、余計に精神をゴリゴリ削られる。
物置部屋を出て、早速仕事に入ろうと扉を開けようとすると、メイド長が「ちょっと待って」と声をかけてきた。
「皆に紹介するわ! 今日からこちらで働くことになったメアリーよ。掃除を担当してもらうことになったから、ミアが教育係についてあげて。これで少しでも掃除が楽になるといいんだけど」
そう言って私の前に出てきたのは……。
弟のことが大好きすぎる、ちょっと変わった子。スージーだった。
スージーもどうやら私のことに気づいたのか、目を大きくしてパチパチとしながらこちらを見ている。
「メアリーと申します。今日からよろしくお願いいたします」
「ミアよ。今日からよろしくね」
軽く挨拶をしてから、軽く本邸の案内をしていく。
ある程度案内を終えた後、私はスージーに声をかけた。
「ちょっと……スージー、なんでここにいるの!?」
「ここではメアリーと呼んでください。私は殿下から頼まれてこちらに来たのです」
「えっ!? ディーから!?」
モニカが何かツテがあると言っていたけど、まさかディーだったなんて……。
「はい。なんでも人が足りていないので、助けになってあげてほしいと……。お義姉様のことはばれないようにいたしますので、ご安心ください。そのために地味な格好で来ました!」
お義姉様って……サフィールのこと、まだ諦めていなかったのね。
サフィールもサフィールで満更でもなさそうだったし、早くくっついてしまえばいいのに……。
「そう……。確かに猫の手も借りたいくらいだったから……来てくれてありがとう! 注意事項がいくつかあるから、掃除しながら話すわね」
それぞれ別々の部屋を掃除していくのも一つだけれど、まだ慣れていないため、今日は同じ部屋を掃除していくことにした。
「そう言えば……メアリー、ここの仕事は通いだけど大丈夫?」
「はい! 準備万端ですので、ご安心ください」
確かスージーの家は結構ここから離れているはずだ。近くにお家でも借りたのか……。
仮にも侯爵家の娘だし、セキュリティーなどはきちんとしているだろうから、大丈夫だとは思うけど……。
「ならよかったわ! それじゃあ……まずはこの部屋から掃除していきましょうか……」
今はまだ、お二人が部屋で寝ている時間のため、その間に普段から使っている別の部屋を片付け始めた。
***
スージー視点。
ディグレッド王太子殿下に声をかけられたときは何事かと思いましたが、まさかお義姉様と一緒にお仕事ができるなんて思ってもいませんでした。
お義姉様の弟でもあるサフィール様のことはお慕いしておりますが、それ以上にお義姉様は私の憧れの女性でもあります。
アルヴィエ家の次女として貴族のマナーなど色々学んでまいりましたが、何を行っても完璧な女性はお義姉様以外いらっしゃらないのでしょうか。
初めはお父様も、アルヴィエ侯爵家の娘として、私かお姉様をディグレッド王太子殿下の婚約者に……と考えていたようですが、マーガレット様を見てから「私たちでは敵わない」と思ってしまったのです。
ディグレッド王太子殿下の仕事内容は全て頭に入っていて、的確なアドバイスをしていくマーガレット様。さらには自分の商会まで立ち上げて、流行の最先端を発信し続けております。
雇用のない人たちには仕事を斡旋したり、民たちが過ごしやすいようにと考えている姿は、同じ女性として憧れてしまうほどです。
そんなお義姉様が、まさかディグレッド王太子殿下以外と結婚することになるとは思ってもおりませんでした。
しかし、ディグレッド王太子殿下の話を聞くと、裏があるというではありませんか。それに、ディグレッド王太子殿下もマーガレット様のことを諦めてはいないご様子。
私、ディグレッド王太子殿下とお義姉様のカップリング以外、受け付けませんの……。
ディグレッド王太子殿下が近くでお義姉様のことを見られないというのであれば、私が代わりにお義姉様を見守ります!
そう思ってメイドのお仕事の面接を受けましたが……。
まさか、あの国一番の貴公子とも名高いジェラール様が、あのような方だったなんて思いもしませんでした。




