金貨ちゃんを見ると疲れが吹き飛びますね。
「「おかえりなさいませ。マーガレット様」」
メイドの仕事を終えて離れに戻ると、二人が出迎えてくれる。
「はぁぁぁぁ……ただいまぁ……」
いつも通り掃除はしたけど、今日も収穫はなかった。
それどころか、最近やたらとアニエスが掃除中に小言を言いに来るのがとても面倒だ。
どうやらそれは私だけではないらしく、他のメイドたちにも同じような態度をとっているらしい。
最近はそのせいもあって、職場全体の空気があまりよくない。
「それで、モニカ、ナニカは何か収穫があった?」
「私はいつも通り、マーガレット様の好きな売り上げを受け取ってまいりました。最近の流行ですが……女性の間では、ポプリなどの花の香りがとても流行っているそうですよ。癒やしの効果があるとかだそうです。あまり調査できず、申し訳ございません」
少しの時間で色々なものを見てくるには時間が足りないものだ。
こういったことは地道な調査が必要だし、調べた結果、何かしらひらめいたらいいと思うくらいだ。
私はナニカから売り上げを受け取り、中の袋を確認した。
「ん~~~~~!! やっぱりこれよね! 今日の疲れが全て吹き飛んだわ!! ありがとう!!」
金貨を手に持ってニヤニヤしていると、モニカがゴホンと大きく咳をした。
「ご、ごめんなさい。モニカは今日、前執事長と会えた?」
「いえ。マーガレット様の恋人は金貨ですので……全然大丈夫です。私もやっと目ぼしい情報を得ることができました」
恋人が金貨……。
フフフ……とてもいい響きだ。
「前執事長に会えたのね! それでどんな話を……?」
「前執事長のドミニオンさんが辞めることになった理由、帳簿がありそうなところ、それと領地で何かしら問題が起きているのではないか……ということでした」
辞めることになった理由は、メイドの方々から聞いた内容とほぼ相違がなさそうだ。ただ、辞めさせられた……というところは違ったけれど……。
「それで……帳簿のありそうなところは……」
「アニエスが持っているのではないかと……。もしかしたら、ジェラール様は帳簿という存在すら知らないのではないかと言っていました」
公爵になって五年……帳簿の存在を知らないということは、どういうことだ……?
今までの資金繰りは一体どうしていたのか。もしかして、お金は天使が運んできてくれるとでも思っているのであれば、相当頭がお花畑だ。
「そ、そう……ジェラールは公爵として何もしていないのね……同じ貴族として恥ずかしいわ……。とりあえず近々、領地に行ってみましょう。今の状態や減額申請をしていた理由を含めて調査してくる必要もあるし。勝手に行ってもバレないだろうけど、後で何か言われるのは面倒だから、ジェラール宛てに手紙を書きましょう。ちょっと旅行に行ってきます……とね」
メイドの仕事もあるし、急に休みを取るのは難しいから、行くとしたら一か月後くらいだろうか。それに、前もって領地にある屋敷を管理している人にも連絡をしておかなければならない。
「承知いたしました。一か月後に領地へ行けるよう準備いたします。マーガレット様もそれまでに準備してくださいね? いつもギリギリに準備して忘れ物が多いんですから、気をつけてくださいよ!」
私たちと家では、できることは自分で行う、というのが昔からのルールだ。普通であれば侍女が行ってくれる仕事も、基本は自分たちで行う。
お父様いわく、感謝の心を忘れないためらしい。
確かにそのおかげで、侍女の仕事の大変さや大切さ、それにメイド・執事人材派遣事業ができているわけだから、今になって思えば感謝しかない。
子供のときは、なんで自分でやらないといけないの……? と思ったものだけど……。
「わ、分かっているわ……なるべく早く準備するようにするから……」
「よろしくお願いしますね」
ニコリと笑うモニカを見て、ファレノプシス家で一番強いのはモニカなのではないかと思うマーガレットであった。
***
ディグレッド視点。
サフィールからマーガレットがメイドが足りなくて困っていると聞いた俺は、一人の女性に声をかけた。
「スージー。急に声をかけてすまないな。一つ、君に頼まれてほしいんだが……」
「ディグレッド王太子殿下。とんでもないことでございます。それでご用件とは……マーガレットのことでしょうか?」
スージー・アルヴィエ。
アルヴィエ侯爵家の次女で、俺とマーガレットの二つ年下の女性だ。
マーガレットとは話が合うのか、いつも楽しそうに話をしていて、もしマーガレットが俺のこ、こ、婚約者になるときは、侍女をお願いする予定だった。
アルヴィエ侯爵が法務局長として登城していることが多かったからか、スージーも小さい頃からの腐れ縁だ。
一度はスージーとの婚約も話に上がったが、スージーが「他の女性を好きな方と結婚できません」と声を大にして言ったことで、なかったことになった。
そんなスージーはサフィールのことが大好きすぎて、いつも告白しているくらいだ。
「実はな……」
マーガレットの現在の状況を伝えると、スージーの顔はどんどん険しくなっていく。
「……知らないところでそんなことが起きていたのですね……分かりました。このスージー、未来のお義姉様のために一肌脱いでまいりますわ!」
未来のお義姉様って……まだサフィールのことは諦めていなかったのか。
サフィールはサフィールで、まんざらでもなさそうだったが……。
スージーも仕事はできるが、少し変わったところがあるからな……。そこがマーガレットと相性がいいところなのだろうけど……。
とりあえず俺が「頼んだ……」と伝えると、スージーはスキップしながらこの場を去っていった。




