前執事長。 モニカ視点。
マーガレット様とナニカを見送った後、私は前執事長に会うため、王都の町に出てきました。
ナニカと一緒に出るのも一つかと思っていたのですが、一緒にいるところを誰かに見られてしまえば、それこそ大変なことになると思い、慎重に行動をしております。
「確か、この辺りだったと思うのですが……」
王都は大きく分けて四つの区画に分かれており、丸い形をしております。中央に王城があり、王城を守るように外に向かって区画が変わっていきます。中央が王城、貴族区画、商業区画、平民区画という感じです。
商業区画にも住んでいる方がいますが、大抵は貴族区画でお仕事をされている方々がほとんどです。
そして、前執事長は現在、平民区画の南側にいるという情報を手に入れました。
平民区画の南側を歩いていると、少し古めの家が見えてきたのです。
「ここ……でしょうか……」
確かに、一人で住むにしてはちょうどいい広さだとは思いますが、かなり古いお家でした。もしかしたら、内装する前の離れと似たり寄ったりかもしれませんね。
執事長をしていたのであれば、それなりの収入があったと思うのですが……。
家の扉を叩くと、一人の男性が出てきました。
「はい……」
「急に申し訳ございません。私、ファレノプシス家で侍女を務めておりますモニカと申します。以前お勤めされていたフェザリス公爵家の件で、聞きたいことがあってまいりました」
「フェザリス公爵家についてですか……。できればあまり思い出したくはないのですが……」
あまりいい思い出がないのか、フェザリス公爵家の名前を出した瞬間に、すごく嫌そうな顔をしていました。
「申し訳ございません。その……お話ししたくないことを思い出させてしまうかもしれないのですが……どうしても必要な情報なのです……」
「はぁ……分かりました」
ドミニオン・バジール。
前執事長で、二代前のフェザリス公爵様から仕えていたそうで、六十代くらいの少しダンディーなおじい様です。
執事を辞めた今でも普段からきっちりしているようで、今日もベストに蝶ネクタイを付けて、ピシッとした服装をしております。
「二代前から仕えていたのに、なぜ急に執事を辞めることになったのですか?」
「辞めることになったのではなく、辞めさせられたんです」
自発的に辞めたということになっていたが、実際は違ったようです。
アニエスとジェラール様が恋仲になってから、ジェラール様はやたらとドミニオンさんのことを敵視するようになりました。アニエスを盗られると思っていたのでしょう。
ドミニオンさんは、アニエスに節度を持った行動をしなさいと諭していただけだったそうなのですが……。
それから、アニエスはジェラール様に「私のことを皆がいじめる」と言いふらしたそうです。それから、いじめたという人たちはどんどん辞めさせられたということでした。
「前公爵がいなくなった後は、資金も減っていき……このままでは存続が危ない状態になっていました。公爵家を建て直すために何度もジェラール様へお話もしたのですが、聞き入れてもらえず……最終的には『お前なんかいらない。さっさと出ていけ!』と言われてしまったのです」
「さっさと出ていけ」ですか……。なんとも子供っぽいですね……。癇癪を起こした子供のようです。
「そうだったんですね……。その、差し支えなければですが……資金が減ってきた理由は……?」
「アニエスが宝石やらドレスやらを買い始めたことがきっかけですね……。それと、ジェラール様が公爵になってから一度も領地の視察に行っておらず……もしかしたら、そちらも関係しているのではないかと思います。ジェラール様が跡を継いでから帳簿を見せてもらえなくなりましたので、はっきりとしたことが言えず、申し訳ございません」
確かに、この半年、一度も出かける素振りはありませんでしたね。夜会なども今は行われておりませんし……。
一週間に一度、商会が来ていたのは、宝石などの購入と食材などの購入をしていたということでしょうか。
「とんでもございません。最後に、帳簿なのですが……誰が持っていそうか分かったりしませんか?」
「恐らくですが……アニエスではないかと……。もしかしたら、ジェラール様は帳簿すら見ていない可能性が高いと思われます……」
帳簿すら見ていないとは……驚きですね。アニエスという方は一体何をしたいのでしょうか。そちらについても調べていかなくてはならなくなりそうですが、まずは帳簿と領地の状態を知ることから始めましょう……。
「色々教えていただき、ありがとうございました。最後に、こちらをよかったら……」
年齢的にもなかなか仕事が見つからなくて苦労しているのではないかと思いまして、私はマーガレット様が行っているメイド・執事人材派遣会社の応募用紙をお渡しいたしました。
「メイド・執事人材派遣ですか……」
「はい……急に執事が足りなくなった、執事の教育をしてほしい。そういったときに、うちの商会から派遣するシステムなのです。ドミニオンさんでしたら社員としてぜひ来てほしいと、マーガレットお嬢様から仰せつかっております。もしよければ、一度お話だけでも聞きに来てくださいませ」
「マーガレット様と言えば……かなり聡明なお方で、事業なども次々と生み出しているお方ですよね。そのようなお方が……」
「はい……訳あって、今はフェザリス公爵家に嫁いでおります。それで、色々と情報収集が必要でして……」
マーガレット様は少し上の世代に人気がございます。
同世代には好かれないので、とても不思議ですが、それだけ貢献してきていることが多いからかと思われます。
「そうだったのですか。前公爵もマーガレットお嬢様のことは買っておいででした。そんなお方にお仕事を紹介されては断れませんね。明日にでもお話を聞きに行ってみます。何かお手伝いできることがございましたら、いつでもご連絡ください」
来たときは、生きるのもやっとというような、未来がないようなお顔をされていたドミニオンさんでしたが、少し生気が戻ってきたようで安心いたしました。
外に出たときには、高くにあった太陽もいつの間にか隠れ始めていたため、急いで屋敷に戻りました。




