メイド生活も半年目。
メイドの生活を始めて半年が経った。
今のところ目をつけられることもなく、日々地味なメイドを演じられていると思う。
半年経つ頃には、他のメイドたちとも仲良くなった。
人はなかなか増えないけれど……一応、ここのメイドの名前は覚えた。
メイド長がマヤさん。年はあまり変わらず、普段は調理場を担当しているそうだ。
だから面接のときも、なかなか気づかなかったらしい。話してみると、疲れが溜まっているだけで全然悪い人ではなかった。
次にカヤさん。私の教育係だ。この人も私より少し年上というくらいで、ほとんど歳が変わらない。
洗濯をメインに担当しているそうだ。
次にエマさん。アニエスさん付きのメイドらしい。できればしたくないらしいが、仕方なくやっているそうだ。
最後にノアさん。裁縫が得意なため、刺繍やドレスなどの直しをしているそうだ。
以前はお店に頼んでいたそうだが、今はそんな余裕がなく、全てノアさんが一人で直しているらしい。
帰り際、物置部屋で着替えていると、エマさんが話し始めた。
「そろそろ新しいメイドが入ってきてくれてもいいと思うんだけど、なかなか入ってこないわよね」
「そうですね。まぁ、入ってもこの惨状を見れば辞めたくなる気持ちも分かりますが……」
この半年で十人近くの人が面接に来ていた。
マヤさんは猫の手も借りたいくらいだといつも嘆いているくらいだし、落とすことはほとんどないのだが……。
アニエスにクビを切られる人や、入っても三日もたない人ばかりで、なかなか続く人はいなかったのである。
「確かにそうよね……まぁ、私もできれば他のところに行きたいもの」
いつもアニエスの相手をしているエマさんは、恐らく一番ストレスが溜まっているのだろう。
私もアニエスのお付きにだけはなりたくない。
だって……臭すぎるんだもの……。
甘いけど、花の匂いとは少し違うような、スパイシーな臭いも混ざっていたりで、何の臭いか全く分からない。
ただ言えるのは、本当に臭いということだ。
よくジェラールは一緒にいても平気だなと思う……。
「エマさんはどこのお屋敷でも即戦力で重宝されると思いますが、なぜここにいるんですか?」
「他のところだと大体住み込みでしょ? ここは通いだし……家に体の弱い母と、まだ小さい弟がいるのよ。それに……時間も決まっているしね……」
確かに他のところだと住み込みがほとんどだし、勤務時間もバラバラなところが多い。
業務内容とお給料は見合っていないけど、労働時間という点でいえば、かなり優良な勤務先だ。
まぁ、労働時間以外はクソだけど……。
「そうなのよね! 通いっていうのは大きな利点だし、勤務時間も他のところに比べると楽だから……なかなか辞められないのよね……」
ここにいる四人は家事なども行っている人ばかりだからこそ、続けられるのだろう。
「確かにそうですね……早くしないと二十一時になってしまいますし、屋敷を出ましょう」
この半年で感じたことだが、二十一時を一分でも過ぎればアニエスが発狂しだすのだ。
一度その光景を見たのだが、あれはトラウマレベルだった……。
「そ、そ、そうね……」
私の言葉に皆も思い出したのか、急いで着替えを済ませて屋敷を出た。
屋敷を出て離れに戻ると、モニカとナニカが出迎えてくれる。
「ただいま」
「「おかえりなさいませ。マーガレット様……」」
双子ということもあるのか、息がぴったりだ。
ここに来たときは、本当に人が住めるのか? と言うくらい荒れていた所も、今ではすっかり綺麗に整理されている。
住めば都……というのは、こういうことを言うのだろう。
「今日は何か変わったことがあった?」
「「いえ、特にはございません」」
この半年の間、ジェラールが離れに近づくことは一切なかった。
結婚式の件も、謝罪すらない。
きっと自分が悪いことをしたという認識がないのだろう。屋敷で見ていても、甘々な坊ちゃんという感じだ。これならディグレッド王太子殿下の方がしっかりしている。
「そういえば……ディーは元気かしらね。こんなにディーと会わないのは初めてじゃないかしら」
幼馴染で小さい頃から一緒に行動していたし、何もなくても一週間に一回は会っていた。
「ディグレッド王太子殿下ですか? 元気だと思いますよ。ただ、寂しがってはいるでしょうね」
「寂しい? サフィールもいるし、一人じゃないから寂しいなんてことはないはずよ。それに忙しいと思うわ……今まで私が手伝っていた仕事も一人でしなくてはならないのだから」
側近でもないのに、ディーのスケジュール管理をしたり、仕事を手伝っていたのは私だ。
そのおかげでお金の管理や領地経営、商会設立ができたのだからありがたいのだけど。
「マーガレットお嬢様はディグレッド王太子殿下に会えず、寂しくないのですか?」
「全く寂しくないわね。もしかしたら忙しいからかもしれないけど、今は目の前のことで精一杯よ」
正直な気持ちを伝えると、モニカが盛大にため息をついた。
ため息をつかれる理由などないと思うだけに、少しだけ不服である。
「ディグレッド王太子殿下にはもう少し頑張ってもらわないといけませんね……それと、マーガレット様はもう少し周りを見た方がよろしいかと思います。目の前にお手本のようなお二人がいるのですから、よく観察してみてください。モニカからの宿題です!」
「え? お手本って誰?」
「それは自分で考えてくださいませ」
それだけ言うと、モニカは部屋から出ていった。




