結婚してから一ヶ月。ディグレッド視点。
マーガレットが結婚してから一か月が経った。
今までは週に一回くらい、何だかんだ理由をつけて会っていたからか、こんなに会わないのは初めてな気がする。
「結婚すると疎遠になりがちだなんてよく言うが……本当に会わなくなったな……」
「寂しいのですか?」
「寂しくないと言ったら嘘になるが……って、なんでサフィールがここにいる」
先ほどまで一人だったはずが、気づくと後ろにサフィールがいた。
「父はあなたの妹君と姉上の旦那殿のおかげで、家からまだあまり出られないんですよ。だから代わりに私がこのように登城しているわけです」
唯一、家から自由に出られるのはサフィールだけということなのだろう。サフィールは立ち回るのがうまいからな。
ずっと婚約者のいなかったマーガレットと俺は、夜会なども一緒に参加していることが多かったためか、嫌でも目立ってしまっていた。
それを見ていたサフィールは、
「俺は目立ちたくないんで……近寄らないでくださいね」
と、距離を取っていることが多かったものだ。
「それは本当にすまないと思っている。クリスティーナを今探しているんだが、なかなか見つからなくてな……お前は何か情報を得たのか?」
「ええ、その件で今日は登城しておりますので」
俺に一通の手紙を差し出してくるサフィール。マーガレットからだろうか。
いや、どうせあいつのことだ。大人しく手紙なんて書くわけがないだろう……ということは……モニカあたりか……。
封筒を開いていくと、何枚かに分けて書かれた報告書のようなものが入っていた。
「マーガレット様報告書?」
「ええ、モニカには姉上の様子を一か月に一回は送るように伝えてあるのです。それでなくても何を仕出かすか……分かったものではありませんので……」
確かに。今までのことを考えれば、分からなくもないな……。
以前、俺と一緒にいることを周りから悪く言われることがあった。
伯爵家の娘が取り入ろうとしている。
伯爵家の娘のくせに身の程をわきまえろ。
そのときに言い放った言葉は、今でも忘れられない。
「トマッティーノ公爵家のくせに器が小さいのですね。そもそも爵位云々言う前に、やることやってから言えよ。こちら、報告書ですが、書き間違えていますよ。ああ、こちらもですね。書類一つまともに書けないなんて、トマッティーノ公爵家ではどんな教育をされているのでしょうか。前公爵も今頃泣いて呆れていることでしょうね」
トマッティーノ公爵はトマトのように顔を真っ赤にしていて、思わず笑いそうになってしまったものだ。
その隣にいた娘は、何の話をしているか全く理解できていなかった。そして最後に、
「そうそう、これくらいのことも理解できないくせに、ディグレッド王太子殿下の妃になろうと思っているのでしたら、お門違いもいいところですわ。それとも……ディグレッド王太子殿下が望んでいるのはお飾りの妃なのでしょうか?」
俺が笑いをこらえていることに気づいたのだろう。こちらをジロリと睨みつけながら話を振ってきたマーガレットの顔には、「はっきり言ってやりなさい」と書いてあった。
「いや、お飾りの妃なんか要らないな……俺に必要なのは、互いにこの国を、民を守ろうとする妃のみだ。だからすまないが、チェリーシア令嬢は俺には合わないだろう」
その後、チェリーシア令嬢が俺の近くに来ることはなくなった。トマッティーノも不正が発覚したことで、弟に爵位を渡す形になったと聞く。
あのときのマーガレットはかっこよかった。
「また、姉上のことを考えていたのですか。本当にディグレッド王太子殿下は物好きですよね。俺だったら正直、あんな奥さん嫌ですよ……」
「ふっ。お前もいつか分かるよ。それで……マーガレットはメイドとして本邸に潜り込んでいるということか。本当にじっとしていられないな……」
手紙を読み進めていくと、メイドとして働き始めて本邸に潜り込んだら、思った以上の惨状であったことや、ジェラールの相手のことなどが書かれていた。
「父上が、このアニエスという女性を知っているようでして……国王陛下に伝えてほしいと言っていました。それと……クリスティーナ王女殿下のお相手のことも調べ直した方がいいとも。ディグレッド王太子殿下は、クリスティーナ様のお相手に会ったことがあるのですか?」
クリスティーナの相手……。
確か三十五歳くらいの男性だったと記憶しているが、会ったことはない。
父上も何度か連れてこいと言っていたが、頑なにクリスティーナが連れてこないので、会えずじまいだった。
「俺は会ったことがないな。恐らく父上も何度も話していたが、クリスティーナが聞く耳を持たなかった。何度か後をつけたようなのだが、まかれてしまったらしい……」
そういえば、今になって思うが、クリスティーナはどこで相手の男と知り合ったのだろうか。
そもそも、ほとんど部屋から出なかったような子だ。
初めは従者の男とかかと思っていたが、違うようだし……。
「今思うと不可解な点が多い。改めてクリスティーナの相手の男について調べさせよう」
「よろしくお願いします。それと、もう一つ……これはモニカからなのですが、惚れ薬のようなものが巷で出回っているという情報など、あったりしますでしょうか? その……姉上が掃除をしているときに、寝室の匂いが臭くて臭くて耐えられないと言っていたそうなのです。もしそういった薬があるのであれば、使われている可能性もあるのではないかと……」
惚れ薬か……。
この国ではそういった類いのものは禁止されている……。
他国であれば別だが。
「そちらも調べてみよう。どんな臭いか分かれば調べやすいのだが……」
「分かりました。今度モニカに確認してみます」
サフィールと話したあと、俺は父上の元に行き、サフィールから聞いた話を伝えた。
アニエスという名前が出たとき、父上の顔色も何か知っているようだった。
アニエスという女……一体何があるのだろうか……。




