この一ヶ月出来事。
モニカ視点。
マーガレット様がジェラール様の本邸にメイドとして通い始めてから一か月が過ぎました。
初めの一週間あたりはマーガレット様も死にそうな顔をされていましたが、だいぶお仕事内容にも慣れてきたのか、少しずつ顔色も元に戻りつつある気がします。
マーガレット様がこちらに嫁いで来たときは生活環境などが全く整っておらず、とても大変でしたが、それもやっと最低限生活できるレベルくらいまでには整ってきたのではないでしょうか。
マーガレット様がメイドとして働き始めてから、私は離れの内装を始めました。マーガレット様がメイドとして働き始めたことで、なぜこの離れがこのままなのか、誰も見張りなんてしている余裕はないということが分かりましたので、裏の勝手口から好きなように内装をいじらせていただきました。
ご安心ください……見た目は今までと変わらないボロボロの小屋のままですので……。
とりあえずお部屋ですが、マーガレット様のお部屋はもちろんのこと、私とナニカで小さな部屋を一部屋。それとは別にキッチンダイニング、お風呂などを修理していただきました。
本来であれば私たち使用人は別で……と思っていたのですが、この家でそれはとても難しいということ。マーガレット様自身も一緒にいてくれた方が安心とおっしゃっておりましたので、今回はお言葉に甘えさせていただくことにいたしました。
「マーガレット様。お帰りなさいませ」
夜二十一時になると、マーガレット様がご帰宅されます。
入浴やお食事、今日あったことなどをお話ししていると、あっという間に二十三時……就寝の時間です。
「ただいま。やっと内装の工事が終わったのね。とても住みやすくなったわ。ありがとう」
「とんでもございません。それでマーガレット様。今日は何か収穫がございましたか?」
お食事をしながら、今日あったことをお話ししてくださるので、私はそれを書き留めていきます。
「今日は久しぶりに寝室の掃除をしたわ。お香なのか分からないんだけど、臭くて臭くて臭くて……」
お香……何か匂いのきついものでも焚いているのでしょうか。その辺りも少し気になりますね。
「あと、二重底になっている引き出しを見つけたのだけど……中まで確認ができなかったのよ。だから次回入るときは確認してみるわ」
二重底になっている引き出しですか。
それは怪しげな匂いがプンプンしますね。現時点で帳簿らしいものは見つかっていないようですし……。
「それは何だか怪しいですね」
「そうなの……きっと何かしら入っていると思うわ……それで、モニカはどうだった?」
「そうですね……以前、公爵邸で働いていた方たちのお名前と居場所はある程度つかめました。ほとんどの人が王都にいるようですね……」
私はこの一か月、昼間はナニカに離れを任せ、その間、王都で人探しをして参りました。ここで働いていた人たちに話を聞くためです。
結構な人数が辞めていたので、全員の居場所を特定することは難しかったのですが、何とか主要メンバーの居場所は見つけることができました。
「居場所が分かったのね! そしたら……話を聞いてもらえるかしら……できれば前公爵がいたときと、いなくなってからの様子と、あと辞めた理由とか聞けたらいいのだけど……」
確かに、前公爵のときはきちんと税金も納められているとおっしゃっていましたし、この五年の間で何が起きたのか、きちんと調べておくことは大切でしょう。
マーガレットお嬢様の言葉に返答すると、マーガレットお嬢様はお部屋へと戻っていかれました。
私はこの一か月間に起きた出来事をまとめ、サフィール様にお手紙をお出しするのでした。
***
サフィール視点。
「父上。モニカから手紙が届きました」
モニカから届いた手紙を手に持ち、急いで父のところへ向かう。結婚式で起きた出来事のおかげで、父は毎日家で仕事をしていた。
結婚式の後、急いで国王陛下も訂正してくれたのだが、その話を信じてくれる人の方が少なく、なぜか全て姉上が仕組んだことで、フェザリス公爵もクリスティーナ様も被害者という話で広がっている。
なんなら、「悪女に引き裂かれた二人」なんていう劇にまでなっているくらいだ。
姉上本人はそんな話すら知らなそうだけど……。
「それで何と書いてあった? あいつのことだ、何かしら仕出かして……」
仕出かしていなければ……なんて思ったのだろうが、姉上が黙っているわけないじゃないですか……。
「ないわけがないよな……ハハハ」
「そうですね。今はメイドとして本邸に潜り込んでいるそうですよ……」
父上は目頭を手で押さえて「やはりな……」と言っているところを見るに、薄々気がついてはいたのだろう。
「それで、聞いてびっくりしたのですが、フェザリス公爵のお相手……父上とあまり年齢の変わらない方だそうですよ。しかも元メイド長だとか……。名前はアニエスと言うそうです」
「なに!? ア、アニエスだと!?」
アニエスってそんなに有名な人なのだろうか……。
俺は年上好きというところにびっくりしたものだが、どうやら父上は違うところに驚いているようだ。
「は、はい……」
「手紙にはアニエスとしか書いていなかったか?」
俺の肩をつかみ、ガクガクと揺さぶってくる。
「ち、父上。何があるか知りませんが、手紙にはアニエスとしかございませんでした」
「すまないな。分かった。このことは陛下に知らせる。何だか嫌な予感がする。クリスティーナ様の相手の名前も至急調べてほしいのだが……」
父がここまで取り乱すのは珍しい。恐らく自分で調べたいところを我慢しているのだろう。まだ父より動きやすい俺は、「分かりました」と一言伝えて、部屋を出た。




