二人の寝室。
メイドの仕事を始めて一か月が経った。
初めのうちは仕事に慣れるのが精一杯……というよりは、掃除をする場所が多すぎて猫の手も借りたいくらいだったけど、少しずつ今の仕事量に慣れてきていた。
仕事を始めて一か月。フェザリス公爵家の実態が少しずつ分かってきていた。
まず、ジェラール。
ジェラールは母親を早くに亡くしたこともあり、自分の母親くらいの年代の女性が好きなようだった。あとは早くに公爵になり、たくさんの同年代の女性に言い寄られたことで、同年代の女性が苦手になってしまったらしい。
アニエスというジェラールの子猫ちゃんだが……。
元々この家のメイド長だったそうだ。前フェザリス公爵が忙しかったとき、いつも面倒を見ていたのがアニエスだったそうだ。いつもジェラールのことを怒ることもなく甘やかしていた。
前フェザリス公爵が亡くなって落ち込んでいるときも、アニエスが近くで慰めてくれていたそうだ。そして、そこから二人の関係はメイド長と主人という関係から恋人同士になったんだとか……。
「恐らく……この家の税金についてはアニエスが絡んでいそうよね……。ジェラールは貴族教育をきちんと受けていたとは思えないほど、家の仕事をしていないし……執事長などもいないんだもの。この家の収支が気になるところね……」
早めにどこに大事な書類があるのか調べておきたいのだけど、いかんせん掃除の量が多すぎて……。
全く探せていないというのが実情だ……。
そして今日も掃除をしていると、寝室から二人の楽しそうな声が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、アニエスは僕のこと好きぃ?」
「はい、アニエスはジェラールのことが大好きですよ」
「えへへぇ~……僕もぉ、アニエスのことだぁいすきだよぉ……」
他の人が見たら「きゃ~~~!!」と楽しいところなのだろうが……私からすると見たくもない光景である。
それに先日はママ呼びしていたと思うが、今日は違うようだ。日によって違うのだろうか……。
ここに残っている人たちも同じような感想なのか、誰一人寝室には近寄ろうとしない。
そして、なぜここのメイドや執事長が辞めてしまったのか……。
それは単に二人がここで働いている人たちに嫉妬したからだそうだ。
執事長とアニエスは元々年代も同じで、度々アニエスに行動を慎むよう言っていたらしい。
それにメイド長と執事長だ。打ち合わせなどもあり、二人で話すこともあったりしたのだろう。それを見たジェラールは執事長に大激怒!
「僕からアニエスを奪うやつはクビだ!」と言って大暴れしたらしい。
今まで前公爵にお世話になったからと我慢していたが、我慢の限界を迎えた執事長は「こちらからお暇させていただきますのでご安心ください」と、その日のうちに荷物をまとめて出て行ったそうだ。
執事長が辞めたことで、料理長や庭師、その他の従者の方々も全員辞めてしまったんだとか……。
元々ジェラールは子供のまま大人になったような人で、わがままが多く、自分の思い通りにならないと泣き喚いて大暴れするのが当たり前だそうだ……。
この一か月の間にも二回、同じ状況を見ている。
メイドに関しては、ジェラールが熟女好きと知ったアニエスが、ベテランのメイドたちを辞めさせたのだそうだ。
そのため、残ったのは若いメイドばかり……。
しかし、自分より綺麗なメイドはアニエス自身が許せなかった。
どちらにしても、ジェラールの気持ちが自分以外に向くのを怖がったのだろう。
まぁ、正直言って、この状況を知っている人たちがジェラールを好きになることは全くもってないと思うけれど。
あとは、自分のことを少しでも「おばさん」とバカにするそぶりを見せればクビになるんだそうだ。
ジェラールもわがままだが、アニエスもわがままである。
こうして残ったメイドは四人だけ……それも、眼鏡をかけて髪は暗めの色の野暮ったい女性ばかりになった。
広い廊下を一人で掃除していると、二人が部屋から出てくる。
「おはようございます。ジェラール様。アニエス様」
「おはよう。今から朝食を食べてくるから、君はその間に寝室を整えておいてくれ」
アニエスはジェラールの腕に巻き付いて、二人で寄り添いながらダイニングルームに向かう。こちらを見て少し優越感に浸っているようだが、残念なことに羨ましいとは一切思っていない。
「承知いたしました。行ってらっしゃいませ」
そう言って頭を下げると、二人で歩いて行った。
「さて、今のうちに掃除して何か隠しているものはないか探し出しましょうか……」
寝室は二人から掃除を頼まれない限り中に入ることができないため、あまり入って物色する機会がなかった。
そう言って、恐る恐る寝室に入った。
「うっ……気持ちが悪い……」
ここに来て一か月……この部屋に入るのは二回目だが、できれば一番入りたくない部屋だ。
まずはこの臭い部屋を換気するため、全ての窓を開けていく。
次に布団……これが一番厄介だ。シーツがべたべたで、できれば触りたくない……。よくこのままずっと寝られるなと思う。
急いで剥ぎ取って、廊下に全て出していく。
そしたら、部屋の中全体を箒で掃いてから水拭きをしていった。
窓を開けてから三十分くらい経てば、少しずつ臭いがマシになってきていた。
それでも壁や布団にこびりついた臭いは取れないのだから、どれだけ臭いんだと言ってやりたいけれど……。
ある程度片付けたら、引き出しなどを物色した。
「やっぱり……この部屋には帳簿なんて隠していないわよね。というか、帳簿なんてつけているかも怪しいけれど……」
そう思ってベッド横にある引き出しが、外から見るよりあまりに浅い引き出しだということに気付き、引き出しの底を軽く叩いてみると、中が空洞になっているような響く音が聞こえる。
「まさか……二重底になっているのかも……」
できれば二重底になっているところを確認したいところだけど……。
まだ掃除も残っているし、そろそろ二人が戻ってくる時間になってしまう。
今日はここまでにして、一度掃除に集中した。




