第98話 フレデリック
フレデリックがそのエクソシストを見たときの第一印象は、「ソフィアがいかにも好みそうな外見の青年」だった。
ソフィアがかなりの面食いなのは、生前からなんとなく気づいていた。そんな彼女がフレデリックに言ってくれた、
『あなたの目って、宵闇みたいで綺麗な色ね』
という言葉が、フレデリックは心底嬉しかったものだ。
ウィッテン・フェルベルトと名乗ったエクソシストの青年とフレデリックは、まるで対照的だった。
金髪に宵闇色の瞳を持つフレデリックと、宵闇色の髪に金の瞳を持つウィッテン。
白い肌のフレデリックの容姿は並み程度で、褐色の肌のウィッテンは思わずフレデリックが見とれたほどの美形だ。
そして家柄も大きく違う。
おそらくウィッテンは、貴族の出身だ。フェルベルト家といえば、帝国の名家中の名家。国境をまたいでいるとはいえ、そうそうある家名ではない。フレデリックが推測したとおりならば、田舎貴族である自分の家など、足下にも及ばない。
なぜそんなウィッテンがエクソシストをしているのか分からなかったが、自分がウィッテンのように華やかな男だったならば、プロポーズしたときもソフィアはもっと喜んでくれたかと考えてしまう。
プロポーズした、あの夏の日。ぽかんとしたソフィアの顔を思い出すと、フレデリックは今でも少し笑えてくる。
本当なら、そんな愛嬌のある明るい彼女が自分のそばにいてくれるはずだった。
ウィッテンは、すべての真実を暴いてしまうだろうか。
今の妻が本当はカチュアであることも。
フレデリックが私怨でカチュアを責め続けていることも。
そのとき、あのソフィア好みのエクソシストはどんな顔をするのか。
あの綺麗な顔で見下すか。
それとも、何事もなかったかのように涼しい顔をしてくれるのか。
もしくは――フレデリックに同情してくれるだろうか。
エルディア村はとても小さなコミュニティだ。本当は生きていたのがカチュアだと知れたら、義母のマーサはいったいどうなってしまうのか。彼女はカチュアの母だが、ソフィアの母でもある。心無い噂話で村にいられなくなったそのときは本宅がある町へ連れていくつもりだが、それがはたして本当にマーサの助けになるのかは、フレデリックにも分からない。起こってしまった事実は、消えないのだから。
できたらウィッテンは、余計なことに気づかないでいて欲しい。
なにがあっても『ソフィア』が本当は『カチュア』であるとばれてはいけない。
エクソシストに頼るのは、人生で初めての経験だった。いったいなにが起きるのかは分からないが、なんとしても真実を隠したまま、都合よく事件だけを解決してくれないと困る。
聖職者に隠し事をするのは気が引けるが、うまくいくように願うしかフレデリックにはできなかった。




