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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第6章 選ぶ道

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第85話 ゲイル

 まさかフィオナが、魔術人形を作っていたとは。


 ゲイルはフィオナのいない部屋の中で、椅子に座っている人形を眺めた。窓から差し込む月光に照らされた人形は、完全に魔力を失っているようだ。本来は生者と区別がつかないほど生々しいはずのそれは、今はただのよく出来た人形でしかなかった。


 だが、このゲイルによく似た人形を作る為にフィオナが大変な苦労をしたのは、簡単に想像がつく。

 ゲイルは魔術人形を何度か戦場で見かけた経験がった。あれは製作にも維持にも大変な手間がかかるのだと、人形使いたちが言っていたのを覚えている。

 そんな人形をわざわざゲイルの為に作ってくれるほど、フィオナは自分を想ってくれていたようだ。


 人形から魔力が抜けているからには、フィオナはもう魔術協会を抜けている可能性が大きい。フィオナがいつから人形使いの力を宿していたかは知らないが、この人形が作られたからには、ゲイルの死がフィオナに伝わったということになる。


 普段誰ともつるまない自分の死を、いったい誰がフィオナに伝えたのか。

 余計なおせっかいを働いた者に対して、最初は軽い苛立ちを覚えた。

 けれども冷静になって考えてみれば、生前あれだけ頻繁に通っていた傭兵業の客が突然姿を現さなくなったとなれば、死んだと思われても仕方ない。


 ゲイルが昇天しそこねたのは、片想いをしていたフィオナに一目会いたいという思いが強かったせいと、彼女のもとへ帰るという約束を果たせなかった悔しさからだ。


 いざ死んでしまったら、フィオナに一目だけでも会おうとするには、驚くほど勇気が必要だった。なかなかセーフェルに行けぬままに彷徨っていた。


 フィオナが幸せであってくれたら、少しの寂しさと共に想いを諦められると思っていたのに。

 もしフィオナが少しでもゲイルの死を悼んでくれていたら、それはゲイルにとっての慰めになる。


 しかしどんな未来が待っているのかを知るのを、ゲイルは恐れた。知ってしまえば、フィオナがゲイルをどう思っていたのかはっきりしてしまうからだ。

 命のやりとりをする危険な仕事をしておいて、ゲイルはただひとりの女性にどう思われているのか知るのが怖かった。


 けれども、旅の途中で出会ったソフィアの世話を焼いているうちに、ついにセーフェルに来てしまった。ソフィアの安全なども考えた上でつい居心地がよかったフィオナの店に身を寄せてしまったものの、まさかこんな現実が待っているとは思っていなかった。


 咄嗟にゲイルはアーウィンという偽名を名乗ったが、人形使いだったフィオナの目には、自分の姿が視えているかもしれない。フィオナが人形への魔力の供給をやめてしまっただけで、魔術師としての能力自体は残っているのだとしたら、彼女にはゲイルの姿がはっきりと視えているはずだ。


 フィオナは真実を知った上で、なにも知らぬふりをしているのかもしれない。

 だとしたら、フィオナに本当のことを話すべきか。

 それとも、人形に魔力の供給をやめる程度には諦めがついているフィオナの為にも、このまま自分の正体をすっとぼけて隠しておくべきか。


 こんなことになるのならば、生きているうちにしっかりと想いを伝えるべきだった。フィオナにその気がないのならば、酒の席での冗談として流せた話だ。なぜたった一言「好きだ」と言えなかったのかと、ゲイルは毎日悔やんでいた。

 もし生前にフィオナと心を通わせられていたのなら、こんなにも長い間彼女を待たせはしなかった。素直に店に帰り、「無事に帰る」という約束を守れなかったと謝れた。


 そうしたら、フィオナはゲイルを思い出のひとつとして処理して、新たな人生へと踏み出せたのに。


 フィオナの時間を止めてしまっているのは、明らかにゲイルだった。


 階下からかすかに聞こえてくる店内の賑やかな物音を聞きながら、フィオナにどう接するべきか考えを巡らせる。しかしゲイルは一向に答えを見つけ出せなかった。


 小さく息をつき、ゲイルが窓の外へと視線を移す。

 するとそこには、ふわふわと宙を飛んでいるソフィアの姿があった。一緒にいるうちになんだか妹のような存在に思えてきているソフィアは、こんな時間にどこへ出かけていたのか。気にはなったものの、最近のゲイルはフィオナと人形のことに気を取られてばかりで、正直今までのようにソフィアについてまで頭が回らなかった。


 それにおそらくソフィアのことだ。あのイケメンエクソシストのウィッテンに関する何事かに首を突っ込んでいるのだろう。それ以外に、ソフィアが行動を起こす理由などセーフェルには存在しない。たとえどこかで他の美形を見つけても、とんでもなく面食いのソフィアが心惹かれるのはずば抜けて美しいウィッテンのはずだ。各地で様々な人間を見てきたゲイルからしても、あれほどの美しい男はそうそういるものではない。


 ともあれ、ソフィアが無事であることにゲイルは安堵した。今の自分は、いつぞやのようにソフィアの危険を察知して駆けつけられる自信がない。


 フィオナの部屋に長居するのもはばかられて、ゲイルは床をすり抜けた。そのまま一階部分の酒場へと移動する。店内で楽しげに過ごしていた他の霊が、陽気な声で挨拶をくれた。

 ちょうどそこに、ソフィアが壁をすり抜けて入ってきた。

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