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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第5章 存在証明

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第69話 フレデリック

 別荘に駆けつけた医師により、薬で眠らされた妻ソフィア。そんな彼女が横たわるベッドのそばで椅子に腰かけ、フレデリックは自身の金髪の頭をわしゃわしゃとかき乱していた。


 なんという事態になってしまったのだ。


 なにかが割れるような物音を聞いてソフィアの部屋を覗いたとき、様子のおかしかった彼女に素直に話しかけていればよかった。何度後悔しても時間が戻りはしないのだが、ぐるぐると思考が同じところを巡ってしまう。


 一階の部屋には、義父のジェームスの死体を運び込んでいた。その部屋では、今も義母マーサが狂ったように泣き叫んでいるはずだ。突然夫が実の娘に殺されたのだ。混乱して取り乱すのは仕方ない。

 医師と共に来てくれた老司祭に義母をなだめるのを任せ、フレデリックは二階にあるソフィアの部屋に来ていた。


 暴れているのをフレデリックがなんとか取り押さえ、医師が薬で眠らせ、ティナが汚れたネグリジェを着替えさせたソフィアは、何事もなかったかのようにベッドで寝息を立てている。医師はというと、追加の薬を取りに村の小さな診療所へと戻っていった。


 今ここで眠っている人物を、皆は『ソフィア』と呼んでいる。

 しかしこれはソフィアではない。妹のカチュアだ。


 フレデリックは確信していた。


 崖での転落事故の後から、フレデリックは双子が入れ替わっているのではないかと怪しんでいた。別人のようになってしまった『ソフィア』を老司祭などは「双子である片割れが失われた影響ではないか」と言っていたが、フレデリックは『ソフィア』の変わりようについて、とてもそうとは思えなかった。

 フレデリックが知るソフィアは、そんなにも心の弱い娘ではない。彼女ならば時間はかかっても、妹の死を乗り越えられるはずだ。生来の気の強さがあればこそ慣れない貴族社会でもやっていけると信じ、自分はプロポーズに踏み切ったのだ。


 だが、いつまで経っても立ち直る気配がない。それどころかどんどん病んでいく一方というのは、どう考えてもソフィアらしくない。生き残った方が気弱で引っ込み思案なカチュアだと考えると、やっと腑に落ちるくらいだ。


 なにより、初めて会った頃から惹かれていた想い人を、フレデリックが見間違えるはずがない。

 どんなに入れ替わってからかわれても、フレデリックは必ずソフィアとカチュアの区別がついた。


 それほど、ソフィアを愛していた。


 しかし周囲の目がある中でカチュアを問い詰めても、とても本当のことは話さないだろう。それに、事件の後からカチュアはほとんど喋らなくなっていた。目の前で起きたと思しきソフィアの死に、ひどく衝撃を受けたに違いない。

 そこでフレデリックは、予定通りの日程で挙式をおこなった。周囲がソフィアだと思い込んでいるカチュアと結婚したのだ。


『傷ついているソフィアに寄り添って、少しでも癒してあげたいのです』


 そんなフレデリックの言葉を、周囲は鵜呑みにしてくれた。義母などは号泣したくらいだ。


 人は自分に都合のいいものを信じたがる。

 「生き残ったのはソフィアで、彼女は心優しいフレデリックの妻になった」という美談を、村の皆が信じたいようだった。そんな環境の中では気の弱いカチュアが真実を話せないというのも、フレデリックは理解していた。

 その為本宅でなるべく静かに暮らさせていたのだが、どんどん弱っていくカチュアの様子をさすがにまずいと感じ、今夏の避暑からエルディア村に残ろうと決めた。一緒に別荘に来ていたフレデリックの両親も『ソフィア』を心配していたのだろう。フレデリックの願いを素直に聞いてくれ、夫婦と妻付きのメイドだけをここに残してくれた。


 この僻地にある別荘ならば、使用人があちこちをうろついている本宅のように邪魔は入らない。滞在中に、フレデリックはカチュアの回復を待って話を聞き出すつもりでいた。真実がどんなに残酷で、フレデリックが望まない現実だとしても、双子になにがあったのか知らなければ気が済まない。


 そうでなければ、フレデリックは『ソフィア』がもう生きてはいないという事実を受け入れられなかった。


「ソフィア……」


 眠るカチュアの髪を、そっと撫でる。

 カチュアが生きている間は、彼女を『ソフィア』として扱おうと決めていた。


 生き残ったのが本当にソフィアだったら、どんなによかったか。そうであれば、カチュアがソフィアになにかをしたのではという疑惑を抱かずに済んだ。なぜ生き残ったのがカチュアなのだと、身勝手に恨むこともなかった。

 真実が分からぬ状況でカチュアを恨むというのも浅はかな話だが、そうでもしていなければフレデリック自身も自我を保っていられなかった。


 本当ならば、今頃は愛しいソフィアと過ごしていたはずなのだ。子供だって生まれたかもしれない。彼女と夫婦になる日を指折り数えて過ごしていたあの日に戻れるものなら戻りたい。

 そもそも自分が求婚さえしなければ、今もソフィアが生きていて、今年の夏もこの村でフレデリックを迎えてくれたかもしれないのだ。


 ソフィアの笑顔を独り占めしたいと願ってしまった結果がこんな結末だと、フレデリックは信じたくなかった。他の誰のものにもなって欲しくなかっただけなのに、なぜこうなってしまうのか。

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