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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第5章 存在証明

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第67話 ジェームス ※グロ注意

 上弦の月から降り注ぐ冴えた月光が、周囲を仄青く照らしている。

 明日の仕事道具を納屋に運び終えて、ジェームスは家路につくところだった。

 家で育てていたレモンマリーゴールドの苗を運んでいる間に、こんな時間になってしまった。家では妻のマーサが夕食を用意して待っている。今夜の夕食はなんだろうかと、ジェームスはうきうきとした気分で歩を進めていた。


 普段であれば、夏以外にエヴァンス家の別荘が使われることはない。ゆえに農作業の合間に簡単に庭の手入れをする程度でよかったのだが、今年は違う。秋になっても、ジェームスの実の娘であるソフィアと、その夫フレデリック・エヴァンスが滞在していた。


 農家の出身であるソフィアが、地方の貴族であるエヴァンス家に嫁いでから一年以上が経った。

 久々に会ったソフィアは、ひどくやつれていた。


 優しいフレデリックや彼の両親にかぎって、ソフィアの世話をしてくれていないというのは考えられない。慣れない暮らしで疲れてしまったのだろうと、ジェームスは考えた。


 それに、結婚式間近に死んだ双子の妹、カチュアの件もある。

 カチュアの死が与えた心の傷から、ソフィアはいまだに立ち直れていないのかもしれない。そう考えるのが自然だった。


 カチュアが崖から転落して死んでからというものの、あんなに明るかったソフィアはすっかり変わってしまった。まるでカチュアの魂に取り込まれたかのように、常におとなしい。いつも笑顔だったソフィアの面影は、すっかり失われてしまっていた。


 まあ、それも仕方ない。常に一緒にいるほど仲の良かった双子だ。しかもソフィアは、カチュアが転落した瞬間を目撃していたはずである。畑にいたジェームスたちのもとに走ってきたソフィアは、口もきけない状態だったのだ。


 ソフィアの心の傷は、ジェームスたち周囲の人間が想像もできないほど深い。その証拠であるかのように、久々に会った実父のジェームスにさえ、やつれたソフィアはなんとか弱々しい笑みを浮かべるという程度の反応しか見せなかった。

 そんな娘が心身を休ませる為に帰省していると思えば、普段より忙しい秋もジェームスは苦にならない。むしろ庭を綺麗な花で飾り、少しでも心を癒してやりたかった。


 ソフィアの様子を見るしかできないジェームスの心には、心配しかない。またあの明るい笑顔を浮かべるソフィアを見られる日は来るのかと、不安になってしまう。

 夫のフレデリックの性格は、ジェームスもよく知っている。身分を理由に傲慢に振る舞うことなどありえない、心優しい青年だ。彼がソフィアを支え、癒してくれるのを願うしかない。


 カンテラを手に、ジェームスが草地を踏みしめる。夜露に濡れた草の香りが鼻をついた。


 ふと、ジェームスの視界に白い影が浮かび上がった。


 思わず悲鳴を上げそうになって、ジェームスは正体に気づいた。

 白いネグリジェ姿のソフィアが、そこに立っていた。

 ソフィアのネグリジェには、血のような跡がついている。よく見れば、顔や手にも血がついていた。どうやら怪我をしているらしい。


 そんな姿のままたたずむ彼女は、実の娘ながらまるで亡霊のようだった。


「ソフィア、あまり父さんを驚かせないでおくれ」


 元々悪戯好きな娘だったが、さすがにこれは心臓に悪い。最近少し心臓の調子について心配があるジェームスには、なおさらだった。


「心臓が止まるかと思ったじゃないか」


 胸を撫でおろしつつ、ジェームスがソフィアへと歩み寄る。正体が娘だと分かってしまえば、最初に感じた恐怖はあっという間に消えた。


「そんな姿で出歩いてどうしたんだい? 貴婦人がそんなことをしてはいけないよ」


 いくら自由奔放な性格のソフィアとはいえ、さすがにこんな姿で外を出歩くのはまずい。もう子供ではないのだ。寝衣で外を不用意に歩くなど、女性としてあってはならない。

 別荘の中に戻るようにと、ジェームスが口にしようとしたとき。


 ソフィアが上半身を大きく捻った。


 続いて響く、風切り音。


 月光になにかが煌めいたように見えて、ジェームスが煌めきに誘われるように視線を下へと向ける。


 農作業用の大きな草刈り鎌が、ジェームスの脇腹に突き刺さっていた。


 視覚で認識してしまった途端、熱を伴った激痛がこみ上げてくる。

 ジェームスが悲鳴を上げるより先に、再びソフィアの体が動いた。まるで麦を刈り取るときのような仕草で、大きな鎌を引き戻す。刃が、ジェームスの腹を引き裂いた。飛び散る血が草地でぼとぼとと湿った音を立て、切り開かれた腹から腸がだらりと地面に垂れ下がった。月の光を浴びた腸はぬらりとした輝きを見せ、まるで別の生き物のようだ。


「ソ、フィ……?」


 全身の力が急速に抜けていく。娘の名を口にするが、しっかりとした響きにならない。

 ジェームスの体が傾ぐ。

 ジェームスが最期に見たのは、返り血に染まったまま涙を流し、夜の空気を引き裂かんばかりに悲鳴を上げる愛娘の姿だった。

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