第42話
「おおそうじゃ、髪と目の色が領主様に似ておったのう。少しくすんだ金の髪に、緑の目じゃ。だからてっきりわしは、領主様の隠し子かと思ったんじゃよ」
「あー、そう思っちゃいますよねえ。だって歴代の領主、みーんな同じ色ですもんね」
エリオの言葉に老司祭が笑いながら頷く。若干不謹慎な理由で笑う老司祭とエリオは、笑いのポイントが似ているようだ。
「エリオ、よく歴代の方々の容姿を知っていますね」
「あ、うん。屋敷の執務室に肖像画がずらっと飾ってあってさ。それでね」
「なるほど」
皆同じ髪色と瞳をしているというのが、ウィッテンは少し引っかかった。
ウィッテンには兄が二人いるが、髪や目の色がすべてお揃いというわけではない。ちなみにウィッテンは母親似だ。遺伝が関係するとはいえ、歴代領主の身体的特徴が全員まったく同じというのは、少し不思議な話だった。
もちろん、ハーシェル家がそういった特徴を跡継ぎの条件にしている可能性もある。領民たちが領主一家の血の繋がりを客観的に感じられるのは、外見しかない。
だが見た目ばかりを条件にしては、有能な子供を除外してしまう場合もある。跡継ぎの条件としては、あまり賢いものとは思えない。
他家の事情なのだから、ウィッテンが疑問を抱いたところで「これがうちのルールです」と言われてしまえば、仕方ないのだが。
「フェルベルト神父、告解室に入った経験はあるかね?」
ひとしきり笑った老司祭が、唐突に質問してくる。
「はい」
数え切れぬほど入った場所だ。ウィッテンは即答した。
エクソシストとて、首都セーフェルでの待機中は他の司祭と変わらない。もちろん首都かつセーフェル教の総本山だけあって司祭の数は多いので、様々な司祭の務めのほとんどは当番制で回ってくる。
その中のひとつに、告解室の当番があった。
信者が己の罪を告白し、神に赦しを請う儀式。それが告解だ。
告解室で聞いた話は、どんな内容でも絶対に口外してはならない。そんな守秘義務が、司祭には存在する。
もっとも、誰がなにを話したかなど覚えていない。顔が見えない構造になっている場所なので、なおさら印象に残らない。
それになぜかウィッテンの当番の日は、信者がひっきりなしに訪れるのだ。
首都の人口ゆえと思っていたが、他の司祭の話を聞くかぎりではそういうわけでもないらしい。きっとなにかの罰が自分に下っているのだとウィッテンは考えていた。それにそうとでも思っていなければ、告解室の左右の小窓を交互に開けてはお決まりの文句を言い続けるあの苦行のような時間は、発狂しかねない。
信者の罪の告白には、ときにはなにかしらのアドバイスをする必要もある。適当に聞き流していられるものでもなかったので、告解室の当番での疲労はひどいものだった。
『告解室』という響きだけで疲労感を覚え、ウィッテンの心が重くなる。
「どうやら告解室は苦手らしいのう」
思わず顔に出してしまった。ウィッテンの表情を見た老司祭が笑う。
「ウィッテンったら、当番の日はげっそりして帰ってくるもんねえ」
老司祭の笑い声に便乗するのは、もちろんエリオだ。ウィッテンとエリオは一緒に住んでいるので連れだって帰る場合が多いのだが、告解室の当番の日はウィッテンの方が確実に遅くなる。へとへとになって帰宅したときにエリオが食事を用意して待っていてくれるのは、涙が出るほどありがたかった。
「なんというか……告解室にいると、一日中落ち着かないですね」
狭い場所は嫌いではないので、広さだけでいえばウィッテンにとって告解室は落ち着く部類だ。あの異常な忙しささえなければと、何度も思った。
ふぉっふぉっふぉ……と長い髭にこもる笑いを上げていた老司祭が、急に真面目な顔をする。
「入った経験があるのなら、話は早い」
「どういうことですか?」
「告解は、セーフェル教の信者ならば少なくとも年一回はする決まりじゃろう?」
老司祭の言葉は、先代の領主もこの教会で告解したと示している。
そして老司祭には、守秘義務がある。
エドワードに関する話は老司祭自らでは話せないものがあるから、シグムントに訊けというわけか。
ウィッテンは老司祭の言葉をそう捉えた。隣に視線をやると、同じ考えに至ったのかエリオが小さく頷いてくる。
「たしかシグムントさんは、今は見回り中だっけ」
「むやみに歩くよりは、合流を待った方がいいですね」
それに誰に聞かれるか分からぬ道端で、シグムントが重要な話に応じてくれるとは思えない。
立ち上がり、エリオとともに老司祭に一礼する。
「貴重なお話、ありがとうございました」
「なんの。困ったときはいつでも訪ねてきておくれ、兄弟たち」
老司祭と軽い抱擁をかわすと、ウィッテンたちは教会を後にした。




