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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第3章 悪魔とは

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第35話 ソフィア

 日曜日の朝、ミサがおこなわれる時間。いつもならば眠りこけているその時間に、ソフィアは教会の外にいた。本当は中に入りたかったが、手櫛で髪を整えただけの姿でウィッテンに会うのは恥ずかしかった。

 ここに来るとは、誰にも言っていない。言えば反対されるのが分かりきっていたからだ。ゆえに、ソフィアは自力で身だしなみを整えるしかなかった。


 開いている窓から漏れ聞こえるウィッテンの声は甘く、ソフィアの体の隅々まで清らかなもので満たしてくれるような気がする。霊になって初めて、ソフィアは体が軽くなるのを感じた。晴れやかな気持ちがして、とても心地いい。天にも昇るとはこのような感覚を言うのだろうか。


「おい馬鹿、昇天しかけてんぞ!」


 慌てた様子のゲイルに引っ張られ、ソフィアは強引に教会から引き離された。ウィッテンの声が聞こえなくなり、それと同時に体の軽さもふっと消え去る。


「朝早く出かけていくから何事かと思えば、まさか本当に教会に行くとはな」


 ウィッテンの声が聞こえなくなったのを確認して、ゲイルが手を離す。


「だってマスターが、日曜のミサはウィッテンがするって言ってたんだもん。てことは、ウィッテンの声が聞き放題なのよ? 来るに決まってるじゃない」

「『決まってるじゃない』って、おまえなあ」


 ゲイルが深々とため息をつく。


「それでおまえが昇天したら、俺はエレナになんて説明したらいいんだよ。『イケメンの声聞きたさにミサに行って昇天しました』じゃ、情けないにもほどがあるだろ。しっかりしてくれよ。いやまあ、おまえがそれでいいって言うなら俺も止めはしねえけどさ」

「まさか。まだ『霧の悪魔』を捕まえていないからだめよ」


 真剣な顔で言い切るソフィアに、ゲイルは呆れた表情を見せた。


「でも不思議ねえ」


 ソフィアが頬に人差し指を当て、小首を傾げる。


「今までだって少しくらいは神父様の説教を聞いたけど、今日みたいに昇天しかけたのは初めてよ。やっぱりウィッテンって他の神父様とはなにか違うのかしら?」

「普通の司祭とエクソシストなら、エクソシストの方が退魔能力が高いのは当然だろ。同じ内容の説教でも、魂丸出しの俺たちへの効果は抜群だ。教会の外で聞いてたおまえにも作用するんだから、中で説教聞いてる生きてるやつらにもなにかしらの影響はあると思うぜ」

「ふうん」


 ソフィアも霊として暫く過ごしてそれなりに物を知った気になっていたが、まだまだ知らなければならないことはたくさんあるようだ。


「まあそんなわけだから、むやみやたらにあのエクソシストには近づくなよ」


 ゲイルの忠告に、ソフィアは一応頷いた。


 ミサが終わったのか、教会から人が溢れ出してくる。彼らの表情は、老若男女問わずどこか晴れやかだ。ゲイルが言っていたように、生者にも多少の影響があるのかもしれない。

 ソフィアが生きていた頃の日曜のミサといえば、居眠りの我慢大会だった。今日のように満足そうな顔をしている生者たちを、少しだけ羨ましいと思ってしまう。

 肉体さえあれば、安全にウィッテンを感じられたのに。


「とりあえずあれよね。なんか体がふわっと軽くなったら、逃げたらいいのね」


 どうやったって生き返れるわけがない。ウィッテンのそばで昇天しないようにするには、危険と感じたら逃げればいいはずだ。そんな結論に達したソフィアに、ゲイルの返事はない。

 完全に呆れ果てた友人の無言を肯定と思い込んだソフィアは、再び教会に近づいた。


 あまり露骨にうろつくとエリオに見つかって追い払われる可能性がある。いや、場所が場所なだけに、昇天の相談に来たのだと司祭に紹介されてしまいかねない。

 こそこそと隠れつつ、ソフィアは窓から中の様子をうかがっていた。


「あんまりしつこくするとエレナに怒られるぞ。あいつら領主の客人なんだからな」


 ゲイルの言葉はもっともだ。死後も屋敷で働いているエレナにとって、ウィッテンとエリオは主人の客人であり、もてなすべき相手である。ソフィアはただでさえ既に部屋に侵入するという愚を犯した後だし、エリオには完全に嫌われて手遅れだ。エレナにばれたら確実に怒られる。

 それでも。


「大丈夫よ、見るだけだから」


 ソフィアは諦めなかった。


「おまえの『見るだけ』は、いまいち信用できねえんだよな」


 ゲイルの的を射た言葉が、ソフィアの心にぐさりと突き刺さる。

 たしかに、エレナとの約束だった『遠くから見るだけ』という状態は越えてしまった気がしないでもない。だがまだ、少し話した程度だ。『霧の悪魔』捜しだって、ソフィアが勝手にやっている。ウィッテンと親しくなりたいという下心はあるものの、だからといって約束を破ったと責められる程度ではないと、ソフィアは思っていた。

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