第34話 老司祭
早朝の清涼感漂う空気の中、教会には多くの人々が詰めかけていた。さすがに街中の人間とまではいかないが、それでも普段の日曜日のミサに比べると、その数は多い。なんせどんなに譲り合って長椅子に座っても全員は着席できず、通路や壁際に立っている者たちまでいるのだ。
この教会にこんなにも人が集まったのは、約四年ぶりだ。あれはシグムントが領主就任の挨拶をしたときだったと、老司祭は記憶している。そのときの光景を思い出してみるが、今日の人々の集まり方はそのとき以上だ。
なにより特徴的なのは、若い女性の姿が目立つことだ。
連日の『霧の悪魔』騒ぎによる不安から今日ここへ来たという者も、もちろんいるに違いない。老司祭自身も住民たちの不安を少しでも払拭できればと思い、フェルベルト神父に頼んだのだから。
だがこれだけの人々が集まった背景には、もうひとつの噂の効果も大きいらしい。
首都セーフェルでも評判の『美形司祭』が来たという噂は、またたく間に街中に広がった。元々『セーフェルの美形司祭』の噂はこの町にも聞こえていただけに、余計に話が広がるのが早かったようだ。実際にフェルベルト神父を見かけた者の証言などもそれに加わり、こうして普段よりも華やかな日曜の朝の光景を作り出していた。
動機がどうあれ、教会に人々が足を運んでくれるのは嬉しい。老司祭は目を細めて祭壇を見やった。
老司祭が思っていた以上の人寄せ効果を発揮したフェルベルト神父はというと、祭壇前の演台で説教をおこなっている。セーフェル教の教典を基にした話も、彼の美声をもってすればまるで一節の音楽のようだった。




