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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第2章 生者と死者と

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第19話

 頭では現実を分かっていても、ウィッテンに会える時間が限られているという事実がソフィアを焦らせる。事件が解決してしまえば、ウィッテンはこの町から出ていってしまうだろう。


 その前に、なんとしてもソフィアの手で『霧の悪魔』を捕らえたかった。


 昨日の失態をどうにか挽回した上で、少しでもいい印象を残すにはそれしか方法が思い浮かばない。それに事件解決に役立った霊ともなれば、彼と話す機会だって得られるかもしれない。


 もっとも、そんなよこしまな願いを胸に念糸の練習をしているだなんて、エレナの前では決して言えないのだが。

 ウィッテンには近づかず、遠くから見るだけだと昨日約束したばかりだ。……もう既に、ソフィアは部屋に侵入してしまったのだが。それでもあの日は見ていただけなので、まだセーフだというのがソフィアの考えだ。


 ウィッテンから話しかけてもらう分には、エレナとの約束を破ることにはなるまい。その為にも、少しでもいい意味で目立ちたい。

 ウィッテンが見ている世界に、『ソフィア』という存在を割り込ませたかった。


「ところでおまえ、本当に今夜から見回りするのか?」


 暇を持て余しているような声色で、ゲイルが問うてくる。


「やるわよ。『霧の悪魔』を捕まえないと」

「おまえにそんな正義感があるとは意外だな」


 ゲイルの言葉に、ソフィアは若干の後ろめたさを覚えた。正義感からくる行動ではない。完全に自分の欲望の為だ。


「けど知ってるだろ? 『霧の悪魔』はノルンの住民しか標的にしない。たとえ相手が霊まで標的にするんだとしても、俺とおまえじゃ条件を満たせないんだぜ?」

「知ってるわよ。でも見回ってたら、襲われてる人を見つけられるかもしれないでしょ? そしたら、あたしたちでも『霧の悪魔』を見つけられる」

「私は賛成できないなあ。ソフィアちゃん、危ないことはやめなよ」


 ソフィアの髪を梳きながら、エレナが心底心配といった声を上げる。


「ソフィアちゃんたちがわざわざ危ない目に遭いにいくなんて、私は嫌だな」

「なにかをするには、危険がつきものよ」


 やる気の根源にあるのがウィッテンへの想いだとは、ソフィアは口が裂けても言えない。特に反対派のエレナには、絶対にだ。


 ゲイルは既に感づいている節があるが、今更なにか言っても仕方ないと諦めているようだ。今まで一緒に過ごしてきて、ソフィアが一度言い出したら聞かない性格だとは彼も理解しているはずである。それゆえか、なにか余計な一言を口にするような様子はなかった。


「エレナも一緒に『霧の悪魔』探しに行く?」

「ううん、私はやめておくわ。やっぱりほら、死んでても怖いから」


 エレナが申し訳なさそうに言う。


「エレナは絶対やめといたほうがいいだろ。下手したら狙われちまう」

「そうね、そうよね」


 ゲイルの言葉に、ソフィアは頷いた。なんの気なしに誘ったが、考えてみればこの三人の中で一番危険なのは、ノルンの住人だったエレナだ。犯人が霊をも標的にする存在だった場合、エレナと一緒に見回りをするという行為は、エレナを囮にして歩き回るのと同義だった。いくらウィッテンの役に立ちたいからといって、大事な友人をそんなふうに利用したくない。


 それに、もうこれ以上死ななくていいとはいえ、霊だって痛い者ものは痛いし、苦しいものは苦しい。エレナが危険を避けるのは当たり前だ。自分だって、ウィッテンの件がなければ、好き好んで連続殺人鬼に関わろうだなんて思わない。


「エレナの代わりに犯人捕まえるから、楽しみに待っててよ」


 エレナを『霧の悪魔』探しに誘った気まずさを紛らわせようと、ソフィアはできるだけ明るい声を出した。


「事件が解決したら、エレナも一緒に夜の散歩にでも行きましょ」

「そうね。今の時期は夜遅くなると霧がすごいけど、早い時間なら人通りもあって楽しいと思うわ」


 ソフィアの提案に、エレナは嬉しそうに頷いてくれるのだった。


「まあ騎士団が見回りしてるんだし、先に捕まえられて終わりって気もするけどな」


 鼻でもほじり出しかねないほどやる気のなさそうなゲイルに、ソフィアは即座に言い返した。


「もしそうなら、とっくに捕まってるわよ。だって、あたしたちがここに来る前から見回りしてるんでしょ? こう言ったらあれだけど、あんまり大きな町には見えないもの。四年も犯人が捕まらないなんて、おかしいわよ」


 ソフィアの故郷と比べるとさすがに大きいとはいえ、それでもノルンは小規模な田舎町だ。この規模ならば、隣人同士のコミュニケーションも盛んだろうと思わせる程度の規模である。いくら事件が不定期に起こっているとはいえ、人の噂が素早く広まりそうなこの町に四年も連続殺人鬼が隠れているなんてある意味奇跡なんじゃないかとソフィアは思う。


 そんなソフィアの考えに同調したのは、ゲイルだ。


「そういやそうだな。おまえ、たまに賢いな」

「いつも賢いって言ってくれていいのよ」

「その発言が賢くねえなあ」

「なんですって!」


 ゲイルがソフィアをからかう言い合いの中に、エレナの軽やかな笑い声が混ざる。

 町全体を陰鬱な空気が覆ってはいたが、少なくとも宿屋の屋根の上だけは今日も明るかった。

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