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Ghost Life~キミハヒカリ~  作者: Akira Clementi
第7章 魂の向かう先

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103/103

第103話

 話を聞いているかぎりでは、どうやら彼女は過去にフレデリックとカチュアの魂を持つ者に殺されたようだ。カチュアと魂を分け合っているからには、ソフィアもまた同じ罪を背負っているような気分になった。


 復讐をする為に、アイシスはどれだけの時間を過ごしてきたのか。

 ソフィアたちの魂がどれほど昔に、アイシスを手にかけたのか。

 それらは分からない。


 けれどもソフィアは、アイシスを素直に憎めなくなっていた。いくらアイシスがカチュアにひどいおこないをしたからといっても、ソフィアがアイシスを非難する権利はないように思えたのだ。

 この時代でフレデリックとカチュアを夫婦にしたのはソフィアだ。

 しかしたとえソフィアが死んでいなかったとしても、カチュアと魂を分け合った双子の片割れであるソフィアが、フレデリックと結婚していたのだから。


「……本当に消滅でいいのですね?」

「そうよ。さあ、早く私を救って」


 ウィッテンの確認に、アイシスは迷いなく答えた。


「あの! ちょっと待って!」


 とても口を挟んでいい状況ではないと思ったものの、ソフィアは思い切って声を上げた。


 アイシスがゆっくりとソフィアを見てくる。平静を取り戻した彼女は、ソフィアの目には美しい貴婦人に見えた。そんな彼女を、過去のソフィアたちはなぜ殺してしまったのか。


「あたし、カチュアと双子なの。だからあたしは、昔のあたしたちがあなたになにをしてしまったのか、もっと知っておかなければいけないと思う。だから、アイシスさん、教えて」

「そう、双子になったのね……」


 アイシスがふっと笑う。それは悲しい微笑みだった。


「哀れな子。私に毒を持った『カチュア』は、魂を二つに引き裂かれて彷徨っていたのね。そして生き残った片割れは、失われた半身の存在に苦しめられて。その結果、自分の親まで殺す羽目になって。いい気味だわ」


 気品を漂わせるアイシスの姿とは真逆の、残酷な言葉だった。


「そのままずっと彷徨いなさい。魂を引き裂かれたまま、お互いに苦しめ合いなさい。それが私への最高の弔いになるわ」


 言い切ると、アイシスは再びウィッテンを見る。彼女はもう、なにを問われても答える気はないというような冷たい雰囲気を纏っていた。


 セーフェル教では、双子はめでたいものとされている。実際にソフィアとカチュアは、誕生日のたびに村中から祝福されて育った。

 自分たちの存在は、周囲を幸せにするのだと信じていた。

 そんな双子をまるで呪いの子のように言われるのは、ソフィアにとって初めての経験だった。


「なにか最期に伝えたいことはありますか?」

「ないわ」


 剣を収めたウィッテンに、アイシスは清々しいほどきっぱりと答えた。そんな彼女の頭上に、ウィッテンがそっと片手をかざす。


「神と聖なる大樹の名において」


 ふっ、とどこからか吹いてきた柔らかな風が、ウィッテン髪や僧衣の裾を揺らす。


「第十一の奇跡、ダアト」


 ウィッテンの声に呼応して、うずくまるアイシスの周囲に青白い光の輪が現れた。アイシスを囲む輪の中は、くり抜かれたかのように真っ黒な闇が広がっている。

 ゆっくりと下がる、ウィッテンの手。

 その手に押されるように、アイシスの体が闇にずぶずぶ沈んでいく。形のいい顎が闇に沈みかけたそのとき、アイシスがソフィアをちらりと見てきた。


 アイシスは、優雅に微笑んでいた。

 それが、ソフィアがアイシスを見た最期だった。


「……ウィッテン、お願い。フレデリックにはあたしのことを言わないで」


 ソフィアはウィッテンにそっと声をかけた。


「フレデリックと結婚したのは、あたしの妹のカチュアなの。でもフレデリックも他の皆も、カチュアを『ソフィア』だと思ってる。皆がそれを信じているうちは、そのままにして欲しいの。あたしは妹の名前で葬られたから、セフィロートに旅立てなかった。でも、それでいい。この別荘にあなたがいる間は、カチュアを『ソフィア』として扱って。お願い」


 ソフィアの願いに、ウィッテンが小さく頷いた。その表情からは、ウィッテンがなにを考えているのかは読み取れない。もしかしたら浅はかな願いをするソフィアを見下したかもしれないが、ソフィアはそれでもかまわない。


 カチュアが幸せになれるのなら、なんでもするつもりだった。


「これで、すべては終わったのですか?」


 カチュアの体を抱きしめたまま、フレデリックが口を開く。それにウィッテンははっきりと答えた。


「奥様についていた霊は消滅しました。奥様は一度肉体から魂が離れてしまったので回復には時間がかかりますが、ゆっくり待ってあげてください。また元のように笑い、話せるようになる日がくるでしょう」

「そうですか」


 ほっとしたような表情のフレデリックが、『妻のソフィア』の顔をそっと撫でた。

更新再開は10月19日(月)の0時更新分からです。良い週末を。

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