すりすりモフモフの朝
こんにちは!久しぶりの台風上陸、皆様は大丈夫でしたか?
前回は、鈴花が「学ぶ、知る」を身に着けました。
というわけで、ちょっと休憩です。
仲良し家族の、はじまり、はじまり~
朝6時。
日曜だというのに、いつもと同じ時間に目が覚めてしまった美代子は、首だけを動かして枕元のデジタル時計で時間を確認して、続けて窓辺の薄暗さで天気を推し量った。
わずかに冷んやりと、湿気が多い気がする。聞こえるのは静かな雨音、昨夜の天気予報どおりだ。
(……うん、これは、お寝坊チャンス……)
誰にも怒られやしないのに、なぜこうも後ろめたいのか。
それは魅惑の三文字、二度寝。
大人なので静かに控えていたが、美代子はほくそ笑みそうになった。大人だからね。
そして美代子は、おもむろに、羽毛の掛け布団を被り直そうと引っ張った。
しかし掛け布団は突っ張ったまま動かなかった。何かに押さえられている。
美代子の右足と左足の間のくぼみに、温かい丸いモフモフが陣取っていた。ポピーが寝ているのだ。しかも羽毛布団の上から、容赦なく乗られている。
(なんですって……)
美代子は少し焦った。はみ出ている二の腕や肩が寒い。快適な二度寝のためには、ぜひ掛け布団が欲しいところだ。あと30cmほど引っ張り上げたい。
まずは現状を確認する。両足は開いているものの、布団ごと抑えつけられているのか、足を動かすのは難しそうだ。直接乗っていないのに、意外に重い。
(ああーん、もうちょっと、脇に寄ってほしい……)
安眠中の黒柴を起こさないように、ゆっくり、ジリジリと右足をずらす。よし、10cmほどだが、ずらせた。続けて反対側の左足も、広げるようにずらす。
すると違和感があったのか、ポピーが体勢を変えて丸まり直した。ポフンと羽布団を押さえる軽い音がした。フーッとため息を付く黒柴。
(せっかくずらしたのに!足の上に、乗り直された!)
掛け布団は?そっと引っ張るが、ぜんぜん動かない。
美代子は対策を検討した。
ああでもない、こうでも、ない。
ところで私は、なぜ朝っぱらからセルフでジェンガin布団しているのだろう。
なんだか面倒くさくなった。右足だけ、すっと布団から引き抜く。
黒柴は動かない。
(セーフね……)
そのまま、右足を掛け布団の上から中央へと戻す。
すると柔らかいシーツの隙間から、ふかふかした毛皮に足が当たった。
そのまま足の裏全体で、ふかふかを撫でて満喫する。
(おっ、これはこれで)
ポピーが息をするたび、柔らかく腹が揺れる。暖かい。
ときどき、フスフスと鼻息が乱れるのが、何か夢でもみているのだろうか。美代子は足の裏でではあったが、ポピーの背中を丁寧に撫でてあげた。
やがて、フスーと寝息が落ち着いた。大変よろしい。
二の腕は寒いままだったけれど、美代子は満足げにほくそ笑んだ。
朝6時半。
雄一は目が覚めてしまった。今日は日曜なのだが、休みに限って必ず早起きしてしまうのは、何故なのだろうか?
窓の外はほんのり薄暗い。シトシトと音もするし、うん、雨だな。
これなら今日は車も洗わなくていいし、ま、もうちょっとグダグダしてるのも悪くない。
仰向けに寝ていたが、足に気だるさを感じ、寝返りをうった。掛け布団を足でまたぎこみ、高さを出してベストポジションを探る。
両足をもじもじと動かしていると、ふいに、いつもは無い感触が足に当たった。
(……ふかふかだ)
猛烈な感動が足から登ってきた。ポピーが寝ている!俺の足元で!!
珍しい。いや今年に入って、初めてじゃないか?ああー、いい!もしかして、鈴花に意地悪でもされたのだろうか?いやー可愛いな、おい。
ふいに、幼い頃に愛読していた絵本の挿絵が思い出された。主人公の少年が飼い犬と一緒にベットで眠るシーン。一日中、ずっと側にいる親友。喜びも悲しみも分かちあえるベストフレンド。きっとぐっすり眠れるのだろうな。そう、雄一少年は羨ましかったのだった。
(いい!あと5分!だけ!!そのままで!!)
足の甲でそっと黒い毛皮を撫でる。ふわふわな、だが少し硬さもある、背中の毛流れに沿って、そのまま太ももまでたどる。
(いつも風呂にいれてドライヤーで乾かしているからな。滑らかだなぁ)
日頃のお世話という貢献の成果を堪能しながら、今度はポピーの腹から胸元に足を差し入れる。湯タンポよりはぬるく、でもいつまでも冷めない、柔らかなあたたかさ。たまらん。
ポピーがモソモソと動いた。
(しまった、やりすぎたか?)
雄一はピタリと止まった。俺の小さな幸せよ、どうか逃げないでくれ。
(そういえば)
美代子に借りた絵本。青い鳥。
色々な国へ探しに行ったが、結局は我が家にいたそうな。
(お前がいてくれて、俺は幸せだよ、ポピー)
ふいにダイニングから硬いビニール袋を開ける音がした。美代子がドッグフードの袋をあけたのだろう。カラカラ…と犬用ボウルに入れている。
ポピーが勢いよく立ち上がり、仁王立ちに踏ん張って、ブルブルと身を震わせた。フンと一息つくと、ベッドから飛び降り、走り去って行ってしまった。
(あー!待ってくれ!俺の幸せの青い犬!!)
雄一は虚しく手を伸ばし、そしてばったりと力尽きた。
美代子の弾んだ声が、遠く聞こえてきた。
朝7時。
鈴花が目覚めると、足元にポピーが平べったく寝転がっていた。
(チャンス)
速やかに両足で黒柴ボディをカニばさみをして、そのまま、くるぶしでモシャモシャする。ポピーは眠たいのか、抵抗しない。
(じゃあ、これはどうかな?)
さらにお腹まで、さすさすさす。 頭まで、さすさすさす。
尻尾も丁寧に足で撫でる。下ろしても、すぐにピンとそっくり返るから不思議。
続いて、足の指で三角耳をつまむ。痛くないようにそっと、だ。
逃げられないように、できるだけソフトにしなくては。背中の毛とは違って、耳の先の毛並みは、とてもなめらかで柔らかい。足の親指と人差し指の間を広げて、そっとつまむ。そして、すいっと引きぬく。するとスッと毛皮感がなくなる。足先からあたたかさが消える。
何回か耳を繰り返してから、ポピーのヒゲを足でなでた。先の方はツンツンして硬い。いろんな感触。いい。足が疲れてきたので、下ろした。ペロリ。
(ぎゃっ!やり返された)
鈴花が足を引っ込めると、ポピーはニャムニャムと舌なめをして、ベットから飛び降りた。板の床に寝直したようだ。足元が空っぽになってしまった。
(どうしよう)
起きなくちゃだめかな、と悩んでいると、部屋のドアが開いた。
「おはよ、すずちゃん。朝ごはんにしましょ」
鈴花は布団をたくしあげ、ダンゴムシのように丸まった。
「あらー、そうきたか。ふふ、日曜日だもんねぇ」
ポピーは毎日が日曜だけどねぇ、よっこいしょ、とミヨちゃんが向こうでつぶやくのが聞こえて、そしてカチカチッとポピーの爪が床に当たる音が聞こえて。
じっと様子を伺っている鈴花の上に、ドスンと何かが降ろされた。
ポピーだ!
「重いよう!!」
「あらー、すずちゃん、寝てたんじゃなかったの?」
たまらず叫んだ鈴花に、ミヨちゃんが白々しく笑う。
ポピーが慌てて敷き布団の平たいところに降りる。でこぼこは嫌いなのだ。フッ!と荒く鼻息をついて、そのまま空いたスペースで、平たいところを確かめて、丸くなった。
黒い毛玉が完全に「やめてください」と言っている。
「ミヨちゃん、ポピーが嫌がってるよ!」
「ふーん。お耳やヒゲを引っ張り踏んだりしてる人に、言われたくありませんね」
バレていた。ミヨちゃんすごい。
とりゃあ、と大げさに言いながら、ミヨちゃんが鈴花の布団に潜り込んできた。
「朝ですよぉ~」
「やだぁ!くすぐったいい!やめてぇ!やだあははひー!」
掛け布団がボフボフと音を立て、はね上がる。
「おっ、面白いことしてるな?」
お父さんまで入ってきた。
「いやだぁー!!」
鈴花のベッドがギシギシと音を立て、掛ふとんが舞い上がった。
ポピーは鈴花の部屋から出て、リビングの掃き出し窓の前に敷いてある、古い膝掛け毛布の上に寝転んだ。ポピーのいつもの場所だ。
フーッ。
ため息がひとつ、雨模様の空から差し込む、薄い日差しの中へ消えていった。
コンロの上では、湯気の立つ味噌汁が、お椀によそわれるのを待っている。
お読みいただき、ありがとうございました!
今年はちゃんと梅雨が来ましたね。まだ今後も台風が来るかもしれないですね。
どうぞご自愛くださいね!
ではまたお目にかかりましょう




