らんらんドッグラン
こんにちは!お読みいただき、ありがとうございます。
全回は雄一パパの気持ちで、ちょっと大人の雰囲気でしたね。
さて今回は。幼い鈴花は、ポピーと楽しく毎日を過ごしていますが、彼女なりに思うところも出てきたようです。
今日は、そんな、ほっこり楽しんでいただけたらと思います。
いよいよ、新学期だ。
明るい日差しのなか、鈴花は足取り軽く登校した。
新しいクラスは、誰と一緒かな?
学年には2クラスしかないから、みんな知ってる子ばかりなんだけど。
それでも同じか違うかは、大問題だ。
鼻息も荒く、右足を踏み出して角を曲がり、広い通学路に出る。
すると、黄色い帽子とランドセルカバーが、蜜蜂みたいにちょろちょろと、同じ方向へ進んでいくではないか。
あれは。
「……一年生さんだ!」
あの子もこの子も、あちらこちらとよそ見をしながら、それでも一生懸命に、緑のスクールゾーンをたどって歩いてゆく。
鈴花は思わず口を開けてしまった。
なんて小さいんだろう。
ランドセルが大きくて、重そうで。持ってあげたくなる。
まだお父さんやお母さんと一緒に登校している子が多かった。
ちゃんと車を見なさいね、とか聞こえてくる。
なかでもひときわ小さい女の子が、ピンクのランドセルに埋もれるようにして歩いていく。
鈴花は自分のランドセルの肩ベルトを、ぎゅっと握り直した。
そして少し離れて、後ろからついてゆく。
追い越すのは簡単だったけど、なんだか、見ていてあげたかった。
そのうちに、なんとか校門までたどり着いた。
「おはようございます、鈴花さん」
校長先生が、いつものように、よく通る優しい声で出迎えてくれる。
「おはよう、ございますっ」
鈴花は、張り切ってお返事をした。
「今日からお姉さんだね、頑張って!」
校長先生は、笑顔で黄色い交通旗を大きく振ってくれた。
そっか。
わたし、お姉さんになったんだ!
胸がポッと温かくなる。
「はーい!」
校庭の向こうまで届くような返事をして、鈴花は新しい下駄箱まで駆け出した。
そしてお昼時。
下校して、お昼ご飯をミヨちゃんと食べていた時だった。
献立はご飯とお味噌汁、そして豚のショウガ焼き。
「このあと、今日は良いところに行きまーす」
豚のうまみをまとった甘い新玉ねぎを頬張る鈴花に、ミヨちゃんがニコニコしながら告げた。
「ドッグランのお試しクーポンに当たったの!」
「え!ほんと?!」
鈴花はお箸とお椀を持ったまま、立ち上がった。
ミヨちゃんが、じゃじゃーんと効果音を言いながら、恭しくチラシとクーポンを取り出して見せてくれる。
チラシには、隣町にできた新しいカフェの写真が大きく載っていた。
「屋根付きの全天候型ドッグランあり。愛犬と一緒に、ティータイムを過ごしましょう」とあった。
モデルのお姉さんが、屋根付きの外テーブル席でパフェを食べている。軽食やドリンクなど、いろんなメニューが楽しめるようだ。
しかし鈴花の目は、ある写真にくぎ付けになった。
モデルのお姉さんが、広い芝生でゴールデンレトリバーとフリスビーをしている。
賢そうな黒い瞳の大型犬が、笑っているような黒い縁取りの口もとにフリスビーをくわえて、金色の毛並みをなびかせて走っている。お姉さんの元へ。
すごくカッコいい。
鈴花は想像してみた。
緑の柔らかな芝生の上を、リードを外したポピーと、どこまでも思いっきり走る。
足元から草のいい匂い、頬に当たる湿り気のある風、右に左にジグザグと追いかけっこする、私とポピー。
なんて素敵なの!
「ポピー、良かったね!」
鈴花が弾んで声をかけると、窓辺に伸びて寝ころんでいたポピーは、しっぽを小さく一度だけ振って、またすぐにペタリと黒い絨毯のようになった。
ぼっこマスターは、いつでも日向ぼっこを愛してやまないのであった。
到着したドッグラン付のカフェは、思ったより人と犬が多かった。
平日の午後だが、家族連れも結構いる。
先日オープンしたばかりの大きなログハウス風の建物には、テラスにテーブルがあり、ドッグラン広場を眺めながらゆっくりと食事ができるようだ。
手入れされたきれいな芝生で遊ぶたくさんの犬達を眺めながら、犬を飼っていない人達も、ゆったりと楽しんでいるようだった。
虹色に飾られた風船ゲートをくぐって、受付へ進む。
そばかすが可愛いお姉さんが、利用の仕方を丁寧に説明してくれた。
「すみませんが、今日は少し混み合ってますので、リードを外してのご利用は、呼び戻しができる子だけでお願いしてます。」
お姉さんに指示されて、受付前に広がる、フェンスで長方形に仕切られた小さなコートの中で、ポピーの赤いリードを離す。他の犬はいないので、練習用の場所なのだろうか。
ポピーは喜んで走っていき、あっという間に10メートルほど向こうの端っこまで行ってしまった。
「呼び戻し……」
鈴花はポピーを見た。
フェンスの根本を夢中で嗅いでいる。
草が茂っているから、あれは伝言板だ。
「ポピー、おいで」
ポピーはくんくんと嗅ぎ続けている。
耳がしっかり立ってこちらに向いている。聞こえているはずだ。
「ポピー、おいで!」
今度はもう少し大きな声で。
すると、ポピーがこちらを見た。
……そして、そのまま別のフェンスの根本に移動した。
鈴花は少し焦った。
チラシにあったゴールデンレトリバーの写真が頭をよぎる。
爽やかな笑顔。楽しそうな犬。
「おいでってば!ポピー!」
パンパンと両手を叩きながら、もう一度呼んだ。
今度はミヨちゃんも声をかけた。
ポピーは嗅ぐのをやめ、こちらを向いて、
……そして、ぺたんと伏せた。
はあはあ、と息をしている。
来ない。
「ごめんね、今日は、広場は難しいかな。」
受付のお姉さんが、残念そうに曇らせた笑顔で言った。
「隣にカフェもありますから、そちらもぜひ」
クーポンのおかげで、犬用クッキーがもらえた。
行こっか、とミヨちゃんが、鈴花の背中に優しく手を置いた。
カフェではちょうどお客さんが入れ替わるタイミングだったらしく、鈴花とミヨちゃん、そしてポピーは、ドッグラン広場に面したテラス席に座ることができた。
テーブルのすぐ近くにリードをつなぐ杭があり、席どうしは程よく離れているので、犬も一緒に食事ができる。板張りの床は、犬の毛など気にしなくて良さそうだ。
「せっかく、ドッグランに来たのに!」
鈴花はテーブルにうつぶせて、ぐちぐちとこぼした。
目の前に広がるのは小型犬用ドッグランで、マルチーズやチワワなどがちょこちょこと走り回っている。ピンクの花柄セーターを着たポメラニアンが、ちろりとこちらを見てから、むこうへ走っていった。
「ポピーだって、走れた方が楽しいでしょ」
鈴花がテーブルの下をのぞき込むと、ポピーは板張り床の端の、日差しが当たるところに寝ころんで、はあはあと息をしていた。ここに来ても、わざわざ、日向ぼっこしている。
おいでって、ちょっとこっちに来るだけで良かったのに。
「そうかな。ポピーは、つまんなさそうかしら?」
ミヨちゃんはホットケーキとドリンクのセットを、鈴花は季節限定のイチゴパフェを注文した。
ポピーは、鈴花があげた犬用クッキーを一瞬で食べ終わると、水ボウルからチャッコ、チャッコと音を立てて飲み、はふーっと息を吐いた。
そして寝ころんで、目を閉じた。
ポピーの黒い毛並みに、風が当たって、しっぽがかすかに揺れた。
鈴花は隣にしゃがみ込んで、一緒に風に当たってみた。目を閉じる。
芝生の匂い、犬の匂い、ポピーの息遣いの音。お客さんの笑い声。
柔らかい空気。
目を開ける。空が広い。
ポピーは、というと。
「……満足そう」
ポピーの柔らかな寝顔を見てしまった鈴花は、そう言うしかなかった。
そうだねぇ、とミヨちゃんが笑った。
そうしているうちに、スイーツが運ばれてきた。
ミヨちゃんはホットケーキに、たっぷりとシロップをかけながら、やっぱりスタンダードな平たいホットケーキが好きだわ、とつぶやいた。
鈴花はパフェの赤いイチゴをすくい取って頬張る。
甘くて、冷たい。
美味しい。
楽しいって、一つじゃないのかもしれない。
「今日はね、朝、一年生さんが、いっぱいいたんだよ」
鈴花はミヨちゃんに話し始めた。
「ちゃんと言うこと聞いてたよ。ポピーより偉かったよ」
ミヨちゃんは吹き出し、メロンソーダを飲んだ。
ポピーは寝返りを打ち、ぼっこマスターのお仕事を始めた。
お読みいただき、ありがとうございました!
今日から東京文学フリマでしたね。お近くの方はお出かけされたでしょうか。
私もいつかはぜひ、と思います。
ポピーのお話が仕上がったら、ぜひ、お読みいただいたあなたにもお会いしたいです。
その際は(いつになるか分かりませんが)、お知らせしますので、宜しくお願いします。
ではゴールデンレトリバー、じゃなかったゴールデンウィーク、
どなた様もエンジョイなさってくださいね!




