第十一夜 ②ー4
「もう少し休んでいれば大丈夫よ」
「そうですか?あ、でも、この後の肝試しはどうしますか?」
エミーユに訊ねられてエラはハッとした。
肝試しイベントはリチアと好感度が最も高い相手が選ばれるもの。エミーユとイドラに関しては昨日と今日と様子を見ているので選ばれる心配は無さそうだ。現にエミーユは心配して側にいてくれている。飲み物を持ってきてくれたり氷袋を変えてくれたりと何かと世話を焼いてくれているのだ。
問題は、イオニコフだ。少し前なら気にすることもなかったと思うが、何せ今の彼はリチアの側にいることを選んでしまっている。これは由々しき事態だ。あの二人が接近することは阻止したい。しかし、今のエラにはそんな元気もなかった。
…いつもなら心配してくれるはずなのに…。どうしてイオニコフは来てくれないのかしら。まさか、好感度が著しく下がってる…とか?
数ある乙女ゲームの中には好感度システムに特殊な要素が組まれている事がある。『時ノク』の場合にはそれはなかったから忘れていた。そう、『嫉妬システム』だ。あるいは『爆弾システム』。好感度が高いキャラがいるのにも関わらず他にも好感度を上げていくと最も好感度の高いキャラが嫉妬し始め、そのまま放置していると好感度メーターに爆弾マークなどが付き、最終的には爆発してしまう。その結果、貯めに貯めた好感度は一気に下がってしまうというシステム。
…まさか…そんなはず、ないわよね?確かにそういうゲームはあったしやったこともあるけど…この世界にもそれがあるだなんてこと…。
一瞬、ヒヤッとする。でもそれならイオニコフの態度にも説明が付けられるのだ。
…嘘でしょ…。
頭が痛くてボーッとする思考の中、その結論に辿り着いた。
そんなエラを差し置いてイベントは着々と進んでいく。
「本当に肝試しするんですか?」
リチアが気乗りしなさそうに呟く。
「そうだよぉ。だって私は君達が行った林間学校の肝試しに参加していないからねぇ。君と一緒に楽しみたいんだ」
ギザイアがそう言いながらリチアの頬に触れる。リチアは頬を染めてギザイアを見つめるがキースが割って入った。
「ギザイア先輩、距離が近すぎます」
「また君かい?相変わらず固いなぁ」
ギザイアはムスッとした。キースも不愉快そうな顔をしていてそんな二人を見てリチアがおろおろしている。
これも原作のシーン。
「じゃあ、こうしましょう。マーガレット君は一人では怖いだろうし誰かペアになってもらいましょう。それなら良いでしょう?」
ローレンがそう提案する。これを受けて攻略対象達は色めき立つ。筈だった。実際、キースやギザイアはそわそわしている。
その光景をソファから眺めるエラはぐったりしていて口を挟む気力はなかった。そんなエラに追い討ちを掛ける出来事が起きる。
「じゃ、じゃあ、イオ様。一緒に…来てくださいませんか?」
リチアが誘ったのはイオニコフ。
「え?…そうだね、良いよ。行こうか」
そう言ってイオニコフはリチアに微笑み掛ける。エラはその光景を見て最も最悪な結末を連想した。
これはあのシナリオの最悪なタッグだ。最終イベントであの二人に殺される。だからあの二人を引き離しておきたかったのに。なんで…。
「ちぇ、まぁいいやぁ。じゃあ…そこで寝ている…彼女は置いておいて私達は肝試しに行こうかぁ」
悪魔のような微笑みを浮かべるギザイアはエラに冷たい視線を浴びせる。エラはその悪意のある視線にゾッとした。
…あいつ…!
そういえば原作でもギザイアはリチアの周りをうろちょろするエラを毛嫌いしていた。それは覚えている。それに本来ここにいないはずのエラを仲間にするわけがない。だから彼がああ言うのは予想がついていた。




