第十一夜 ②ー3
急に黙り込んだエラをエミーユは心配して顔を覗き込もうとしてギョッとした。
戻ったと思っていたエラの魔力が黒く染まりつつあったのだ。咄嗟にエミーユは彼女の気を引こうと大胆な行動に出た。彼女がもし不安を感じていて魔力の色に影響が出たのならそれらを払拭しないといけない。
ぐいっと繋いでいた手に力を込め、エミーユは目を閉じてエラの頬にふわっと唇で触れる。
この事に一番驚いたのはエラだった。目を大きく見開いて硬直している。
…え?、何?今何が起きたの?今、頬に何か触れ…。
思わずエミーユと繋いでいた手を離し自分の頬に触れる。今、確かに柔らかいものが当たった。
ちらりとエミーユの方を見ると二人の視線がぶつかる。ぶつかった瞬間、エミーユが顔を真っ赤に染めて視線を反らす。その反応を見てエラは何が起きたのかを理解した。エミーユが恋する乙女の様に唇に手を添えている。
…ど、どういうこと!?!?な、何で!?
流石のエラもこれにはパニックになる。急展開過ぎるしどういう反応をしていいかわからない。ただ、心臓がうるさいくらいに脈を打っているのはわかる。
元の世界でもこういう経験は無い。二人が色々パニックになっていると不意に目の前に人影が見えた。それと同時に声が降ってくる。
「何があった?」
背の高い褐色の肌と漆黒の髪を持つ美男子イドラだ。彼が来たことで甘い空気も何処へやら吹っ飛んだ。
訝しげなイドラの様子にエラは慌てて取り繕う。
「い、いえ!別に何もありませんわ!!!」
「は、はい!何にもしてません!」
エラに続いてエミーユも弁明するがその言い回しにイドラは余計に訝しげな顔をした。が、それ以上、言及してくることは無かった。
のだが、何故かエラの左隣にドカッとイドラが腰を下ろす。エラは急に隣に座ってきたイドラに驚いた。
…ちょ、ちょっと何でそこに座るのよ!?
少しばかり嫌な顔をしたのがイドラにはバレた。ジロっと睨まれたエラは何とか誤魔化そうとイドラに話題を振る。エラが何とか絞り出した話題にイドラが淡々と答えていく。そんな二人を見ていたエミーユはエラの魔力の色を確認して、安堵する。だが、それは一時的なものだともうエミーユはわかっている。
…先輩は気づいてないみたいだけど…。きっと感情の起伏が影響するんだ。
イドラと憎まれ口を叩きながら話すエラは少し楽しそうに見えた。それでもエミーユは安心出来ずにいるがエラがそれに気付くことはない。
一方、
パラソルの下で涼を取る三人を海の方からずっと見ていたのはイオニコフだった。彼はある瞬間を目撃してしまっていた。ーエミーユがエラの頬に口づけをするその瞬間をー
イオニコフは硬直する。そんなイオニコフを案ずるように声を掛けたのはリチアだった。
☆
この日の夕食を終え、肝試しイベントへと話は進んでいた。
本来、このイベントに参加する筈はなかったせいか物語の修正力なのか…エラは昼以降徐々に体調が悪くなっていた。
…熱中症かしらね…。もともと暑さに弱い体みたいだし…パラソルの下にいるからって油断した…。
別荘の一階にある吹き抜けのリビングでエラはソファに横たわりぐったりとしている。おでこに氷袋を乗せて寝転ぶ。吐き気もするし頭もボーッとしている。リチアの聖魔法での治癒を受けられたら違うのかも知れないが体の内に魔女の思念がいるのでどんな影響が出るかも判らない。その為、治療を受けるわけにもいかなかった。
そんな彼女を心配してエミーユが顔を覗き込む。
「先輩、大丈夫ですか?」
エラは氷袋を手で支えながら、屈んで視線を合わせてくるエミーユに少しだけ笑って見せた。




