第十一夜 ②ー5
重い体を引き摺ってでもついていくくらいしなければ。そう思い体を起こすと側にいたエミーユが慌てて静止する。
「ダメですよ!先輩!!まだ具合悪いんでしょう?無理したら悪化しちゃいます」
「夏とはいえ蒸し暑さと夜風で体を壊す。大人しくしていろ」
エミーユだけでなくイドラもそう言って安静にしていることを奨めてきた。気を遣ってくれているのは有り難いが今はそうも言っていられない。イオニコフを引き留めなければならないから。
「大丈夫よ。肝試しって言っても歩くだけでしょう?それに夜風にも当たりたいし…」
顔色が悪いまま笑って見せるエラに冷たい言葉が投げつけられた。
「…キミはベッドに戻って寝てる方がいいんじゃないかい?」
声がした方を振り向くとそこにいたのはイオニコフだ。リチアが彼の腕に抱きついていた。
その姿が目に入った瞬間、エラは足元から崩れていくような感覚に襲われた。
…だめ、だめよ。やめて…冷たくしないで…!
「イオニコフ様…!私は…!!」
今にも駆け出しそうになったエラをエミーユが引き留めた。
「先輩…!だからダメですよ!そんなふらふらな体で…!」
「でも…!」
ギザイアがリチア達を促し玄関へと向かう。キースもローレンもイオニコフも倣って出ていこうとする。
…だめなの…!せっかく好感度だって上げたのに…なんで?来てくれたのに…イドラの時は会いに来てくれたのに…!!
泣きそうになるのを必死に堪えてエラはイオニコフへと手を伸ばしたが空しくもただ空を掴むだけだった。
バタン、と玄関が閉まる音が聞こえて彼等が出て行った事を悟る。どれだけ足掻いても原作パートには抗えないんだと現実を突き付けられているようでそのショックは計り知れないものだった。そんなエラを間近で見ていたエミーユはふつふつと怒りが沸いてくる。彼は徐に立ち上がりイドラを振り返る。
「先輩、彼女の事、お願いします」
「構わないが…何処に行く気だ?」
「…ちょっと、用が出来たので」
それだけ言うとエミーユはバタバタと玄関の方へと向かう。外へと出る直前、エミーユはエラに声を掛けた。
「エラ先輩!少しだけ、待っててくださいね!」
その声だけを残し、玄関の扉が閉まる音が別荘に響く。一瞬、静まり返る空間。次に響いた声はエラのものだった。
「ひゃぁ!?」
その悲鳴と共にエラの体は抱き抱えられた。
「は、ハンニバル様!?一体何を…」
エラはイドラにお姫様抱っこの形で持ち上げられていた。困惑した様子の彼女にイドラは説明する。
「ベッドに行く。安静にするならその方がいいだろう」
そう答えるイドラにエラは呆然とする他無かった。彼は主人公にこそ優しい部分を見せていた。それは主人公の事を大切に思っていたから。不器用なりの優しさだった。その優しさと同じような優しさを向けられている。
これでは彼がリチアではなくエラを大事にしているように感じてしまう。
「ほら、横になっていろ」
部屋についてイドラはエラをベッドの上に寝転がせた。声はあくまでも優しいトーンだ。エラは素直に布団に入る。その様子を見届けるとイドラは部屋の中にあったイスをベッドの横に持ってきて腰掛けた。
「え、と、ハンニバル様は行かれないんですか?」
当たり前のように隣にいる彼に疑問を投げ掛けた。イドラは一瞬きょとんとしたがすぐにいつもの無表情な顔に戻る。
「…元より肝試しなぞに興味はない。付き合ってられん」
「それだけ、ですの?」
「…病人を一人放置するほど薄情なつもりはない」
…意外と真面目なのね…。
エラはイドラの意外な反応に少しだけ驚いた。彼だって本来はリチア達と肝試しをする灯台へと向かっていたはずだ。それなのにこうして身を案じて側にいてくれるなら今までの足掻きは無駄じゃなかったはずだ。
その事に少し安心したエラはだんだんと瞼が重くなり、そのまま眠りについた。




