第十一夜 ②ー1
夏休み後半イベント二日目。原作では今日も午前中は海で泳ぎ、夜は林間学校でのリベンジという形で肝試しをするシナリオだ。この肝試し、リチアのパートナーはその時点での最も好感度が高い相手という事になる。つまり、パートナーにイオニコフが選ばれてしまうと非常にまずいことになるわけだ。
つい先日までならそこに不安はなかっただろうが、ここしばらくはそのイオニコフの反応が悪くどちらかというと避けられている感じがしているので不安が残る。それでもシナリオは止まることがない。やるしかないのだ。
不安が残りつつもエラは昨日と同様に砂浜に来ていた。ビーチパラソルの下で涼を取っている。
視界に広がるのは海に入ってビーチバレーをしているリチア達だ。そこにはイオニコフもいた。
…全くわからないわ…。どうしてイオニコフの態度が変わったのかしら…。私、あの時何かしたかしら?…いいえ、そんなことないはず。イドラの家から帰るときは機嫌も良かったし…。
パラソルの下で三角座りをしているエラは膝に顔を埋めて考えていた。けれどどれだけ考えたところで急変したイオニコフの態度の謎は皆目検討もつかないまま。
どうしてなのかわからない。出会ったときからイオニコフは何かと構ってくれていたし、最大の不安だった彼が魔女側についてくれた…その筈だったのに。膝を抱えて顔を埋めるエラは泣きそうになっていた。実際に泣くことはなかったがそれだけ心の中は不安でいっぱいになる。
…やっぱり…シナリオは変えられないってこと?いや、でもイドラもエミーユも態度が違う。原作でほとんど接点がなかったのに今は…。
昨日のことを思い出す。二人とも様子を見に来てくれていた。それにエミーユとはひとつイベントをこなしている。今のエラにとってはそれだけは心の拠り所になっていた。そんな彼女の前に誰かがやって来て屈んだことで影が降りてくる。
「先輩?大丈夫ですか?」
頭上に声が降ってきてエラは顔を上げた。逆光で一瞬だけ目を細めたが、すぐにそのシルエットの人物が誰かがわかる。
「エミーユ…」
心配そうに眉を八の字に垂らしながらエミーユはエラの顔色を窺う。
「先輩、隣に座ってもいいですか?」
「ええ…構わないけど…」
「ありがとうございます。じゃあ、横、失礼しますね」
エミーユはエラの右隣に座り込む。座ったエミーユはエラを見て微笑みかけてくる。その笑顔にエラは少しだけ救われた。
「え、と、エミーユは遊んでこなくていいの?」
今は一種のアドリブパート。もともとこのイベントに参加しないはずのエラはそのほとんどがアドリブパートとなる。基盤のシナリオもないのである意味、自由だ。
「…先輩だって遊んでないじゃないですか。来たときからずっと座ってますよね」
「私は…、良いのよ。もともと…こういう所は苦手なの。眺めている方がいいわ」
「…じゃあ僕が話し相手になります。ただ眺めているだけじゃつまらないんじゃないですか?」
エラと同じように膝を抱えて三角座りをし、こてっと膝に頭を乗せてエミーユは笑顔を見せる。
その仕草がいちいち可愛くてエラも和んでしまう。
「気持ちは嬉しいけど、そんなに気を遣わなくてもいいわよ?」
エラがそう言うとエミーユは少し拗ねたように頬を膨らませた。
「そんなんじゃありません。僕が先輩と一緒にいて話がしたいんです!」
そんな風に可愛く抗議するエミーユを見てエラは目を丸くする。それから思わず吹き出した。
「ふふっ…!そう、そういうことならお言葉に甘えようかしら。貴方さえいいなら、お話ししましょうか」
「はい!喜んで!」
エミーユが満面の笑みでそう言うのでエラも思わず微笑み返した。不意討ちのエラの笑顔にエミーユの心臓はドキンと跳ねる。甘く胸を締め付けるような痺れる感覚にエミーユの頬は赤く染まっていく。急に恥ずかしくなってきてついエラから視線を外す。ドキドキと胸が締め付けてきて緊張してしまう。さっきまでのようにうまく話せない。
「あ、の、…せんぱいは…」
「ん?なぁに?」
エラの優しい声にエミーユの心臓はますます早鐘を打つ。エラの笑顔を直接見れなくて手遊びする自分の手を見つめる。
「その…………。す、好きな………、好きなた、食べ物ってなんですか?」
「…へ?好きな食べ物?」
きょとんとするエラと違いエミーユはプチパニックを起こしていた。
…僕、今何聞こうとしたの!?好きな…そ、そんなの聞いたって…どうにもならないのに…!!
ぐるぐると思考が巡り冷や汗が流れる。そんなエミーユに気が付かずにエラは質問に答えた。
「好きな食べ物、ねぇ。そうね…苦いものは好きじゃないわね。あ、辛いものは結構好きよ」
素直に答えるエラにエミーユはホッとした。




