第十一夜 ①ー9
「先輩、もしかして大勢で居るのって苦手ですか?」
「へ?どうしてそんな…」
「だって先輩、来てからずっと一人になろうとするじゃないですか…。今だって一人デッキにいるし…」
ここは所謂アドリブパート、ということか。それなら…。
「んー、まぁそうね。あんまり得意じゃないわね。なんていうか…」
流石は乙女ゲーム。右を見ても左を見ても美形揃いだ。最悪のシナリオへのフラグが関係あろうがなかろうが隣に並ぶには心臓に悪い。今目の前にいる彼もその一人。
「まぁ、ちょっと、ね」
そんな理由を言えるはずもないけれど。エラはそう濁したがエミーユは少しムスっとした。
「やっぱり、言ってくれないんですね先輩」
「へ?」
「先輩、前も答えてくれなかったし…。いつも濁してばっかだし…」
…こ、これは…。選択肢間違えた反応よね…。せっかくのアドリブパートを無下には出来ない…!!
「え、と、私、貴方が思うほど彼らと仲良い訳じゃないっていうか…普段から一緒に行動してるわけじゃないからあの輪の中に入りづらいのよ」
…嘘は言ってない、嘘は。うん。
「…先輩、リチア先輩と仲良さそうですよ?」
「そう見えるのね…。ん、んーそうね。ほら、リチア様は誰にでも優しい方だから」
「友達じゃない、ですか?」
エミーユは納得しかねているようだ。だがしかしエラにとっては本当に友達ではない。だから嘘でもない。
「…私、にとって友達って、何かあったときに助けてくれる人だと思っているわ」
アイザックみたいに。困ったときに手を貸してくれる相手。でもちゃんと線引きをしてくれる人。
「…そういう意味では、友達だとは思っていないわ。申し訳ないけど」
そう言ってぱくっと肉を頬張った。エミーユは何処かしょんぼりしている。
「じゃ、僕は?僕も友達でもない、ですか?そんなの…寂しいです…」
思いがけない言葉が聞こえてきてエラは目を見開いた。思ったよりも好感度が上がっていた証拠だ。
耳を垂らしたウサギに様にも見えてそのしょげた姿が可愛い。思わず笑みがこぼれた。
「ふふ」
「どうして笑うんですか…」
「ごめんなさい。ちょっと可愛いなって」
「ぼ、僕は男ですよ?可愛いって言われたって嬉しくないですよ」
「ごめんなさい。でもそうね…エミーユは友達っていうより癒し、ね」
「癒し?ですか?」
きょとんと首を傾げる。さっきよりも表情が明るい。
「ええ、そうよ。だって私が一人にならないように気を回してくれるでしょう?それに貴方が笑ってくれると私も嬉しいし」
そうエラが話すとエミーユはほんのり頬を赤らめた。少し恥ずかしそうだ。
「じゃ、じゃあ先輩は僕が笑ってる方が嬉しいってことですよね?」
「そういうことね」
ぱあああっとエミーユの表情が明るくなって笑顔になる。それから美味しそうに皿の中のものを平らげた。
…なんだ。こんなことでも喜んでくれるのね。ふふ。エミーユは本当に可愛いわね。
エラは自然と笑みがこぼれていた。その笑顔をエミーユはぽけーっと見つめる。彼女の自然な笑顔を初めて見るエミーユはもっとその笑顔が見られたらと思う。
「あの、先輩!今日……!」
エミーユが思いきって声を掛けようとした時だった。
二人の目の前にドン!と追加の肉や焼き野菜が乗った皿が置かれた。
「追加分だ」
そう言ってやって来たのはイドラだ。その辺のウッドチェアを引っ張ってきて同じテーブルに座る。
「イドラ先輩!持ってきてくれたんですか?」
「キースが延々と焼き続けている」
「あ、ありがとうございます、ハンニバル様」
「ありがとうございます!いただきます!」
無邪気なエミーユを見ているとエラは自然と笑みがこぼれる。そんな彼女を横目に見ていたイドラは意外そうな顔をしていた。からか、ふとエラと視線が合った。
「…なんだ?」
じーっとそのまま見つめてくるエラにイドラは少しドキリとする。
「…いえ、あの…。ハンニバル様、昼間はすみませんでした。あれは完全に八つ当たりでしたわ」
席に座ったままだが頭を下げたエラとその謝罪で昼間のやり取りを思い出す。
「あ、ああ…。気にしていない」
あの時、エラは友達などいないと言った。その事がイドラの中で引っ掛かったままだ。
「………」
どうにも形容し難い感情が胸をぐるぐると渦巻く。そのまま黙り込んだイドラの変わりにエミーユが口を開いた。
「昼間って、何かあったんですか?」
「え?ええ、まぁ。ちょっとね」
「んー、先輩?何かあったら相談してくださいね!僕ならいつでも話聞きますよ!」
ニコニコと笑みを向けてくるエミーユにエラは疑問が浮かんだ。
…主人公でもない私に対して、彼はどうしてこうも好意的なのかしら?そりゃ、ありがたいけど正直そこまで好感度上がるようなことしてないんだけど…。
そう言えば、イドラが来て中断されたが彼は何かを言い掛けていた。それについて尋ねてみようか。
「あの、エミーユ?さっき何かを言い掛けてたけど…何だったの?」
「え?あ、それは…」
フォークを手元で遊ばせながら少しもじもじした様子で頬を赤らめる。ちらりとイドラを見て、少し考えてから答えた。
「きょ、今日、この後…なんですけど…その…先輩と一緒に星を見に行きたいなって…」
困ったような照れくさいようなそんなうるっとした目でエラを見つめる。そんな可愛いお願いを断れる筈がなかった。エラは思わず鼻血を吹き出しそうになって自分の鼻をつまむ。
…な、な、……なんて可愛い!!!!!なんて可愛いお願いなの!!!???これを断れる人間なんて存在するの?????
挙動不審なエラにイドラはドン引きしていたが、エミーユはお誘いの返事を待っていて特に彼女の挙動を気にしている様子はない。
「…エミーユ…」
「はい!…あの、ダメ、ですか?」
しょんぼりしたエミーユの肩にぽんと手を置いてエラは晴れやかな笑顔で答えた。
「エミーユのお願いならどこへでも!!」




