第十一夜 ①ー8
☆
「…あの時、どうしてあの子まで呼んだのかなぁ?」
日が暮れ始めた夕方、一行は別荘の庭に集まっていた。これからバーベキューをする為の準備をしている最中だ。
その際、リチアの隣にギザイアが立ち、そう彼女に質問をした。質問されたリチアはニコニコと笑いながらも腹黒さが滲み出るギザイアにニコッと笑顔を返す。
「ビーチバレーの時ですか?」
「そうだよ。別にあの子を呼ぶ必要なかったじゃないかぁ。せっかく君との時間を楽しんでいたのにさぁ」
「…ギザイア先輩はエラが嫌いですか?…でも、イオ様が…」
「え?もしかして、彼のためかい?」
「ええ。だって、あまりにも寂しそうにエラのことを見ていたから…」
「…気が付かなかったな…。そう言えば、彼は聖女の君よりあの灰かぶりを贔屓していたねぇ。今日はそうでもなかったけど」
不愉快そうに話すギザイアの隣でリチアは別荘の庭先に繋がるインサイドデッキに備え付けられたウッドチェアに座っているエラを見やる。彼女はポツンと一人でいた。
「みんなー!準備が出来ましたよ。じゃんじゃん焼いていきますから食べていってくださいね」
ローレンがそう声を掛けてバーベキューが始まった。
ジューッといい音と匂いが辺りに広がる。ローレンとキースが焼いてくれるのをみんなで囲って楽しそうにしている様をエラはインサイドデッキからその光景をただ眺めていた。
…そう言えばこのシーンでリチアは好感度が高い相手と抜け出すイベントがあったわね。それは明日も…。明日の肝試しでもそう…。
ウッドチェアに座ってエラは氷の入ったグラスでお茶を飲む。彼らの会話は原作通りでその会話の中にエラは存在しない。居ても居なくても変わらないのだ。
原作通り?
本当に?
…待って。本当にそうだった?だって原作通りだったらイドラもエミーユも私の様子なんて見に来ないわよね?
急な主人公を交えたイベント発生で狼狽えて忘れていたかもしれない。原作シナリオと言ってもそれは一部分に過ぎないということを。今だって彼らはシナリオ通りの会話をしているけれど、シナリオ部分以外は全てアドリブということになる。
イドラやエミーユが側に来てくれたときは所謂「アドリブ」の部分という訳だ。
…一応、イオニコフも話しはしてくれるのよね。すぐどっか行っちゃうけど…。
アドリブ部分なら私が上げた好感度が適応される、ということ。それなら今までの行動に意味はあったということか。
それならそこまで悲観的にならなくても良いのかもしれない。それでもシナリオが展開されている間はどうにもならないようだが…。
…今はリチアのターンってことね…。
ウッドテーブルの上に肘をつき、溜め息をつきながら目の前で流れるイベントシーンを眺める。彼女のターンなら今どうこうできるものではないということだろう。
「はぁ…」
暇だ。バーベキューなんて元の世界でもやったことがないし友達ですらない人達とどう楽しめと…。
そんなこと考えてはたと思い出す。
…私、重要なことスルーしてた。あの時、イドラはなんて言ってたっけ?
ー…あいつのことも、友達ですらない、と思っているのか?ー
ー…ッ!!…本気か?いや…、何があった?ー
ーお前、…イオニコフと何があった?ー
…“イオニコフと何があった?”。彼そう言ったわよね?どうしてイドラがそんな事聞いてきたのかしら?何か二人で話したの?
そんな事を気にして聞いてくる時点でイドラ自身にも変化があった証明じゃないか。
そう考えると昼間の自分の態度を恥じてくる。
…私、イドラに対して随分な態度を取ったわよね?それなのに海でも様子を見に来てくれたわよね…。
ヤバい。とんでもない悪手だ。それに“友達ですらない”と言ったのも悪手だったはずだ。
ガタンッ!と音を立ててエラが席を立った瞬間、「うわっ」と悲鳴が聞こえてエラも驚いて声の方を振り向いた。
「び、っくりした~。脅かさないでくださいよ…先輩…」
そこに立っていたのはバーベキューの肉をたくさん乗っけた皿を持ってきたエミーユだった。
「エミーユ…あなた、何でここに…みんなは?」
エミーユは手に持っていた皿をテーブルの上に置きながら答える。
「何言ってるんですか。先輩が全然食べてないから適当に見繕ってきてあげたんじゃないですか」
ちょっと拗ねたような素振りを見せつつエミーユは対面に座る。エラはつられて席に座り直した。
「ほら、先輩の分も持ってきたんです。食べてください」
「え、ええ…その、ありがとう」
せっかくの好意を無駄にするのも良くない。エラは彼が用意してくれた肉を頬張った。




