第十一夜 ①ー7
「ありがとうございます、エミーユ。でもエミーユの方が可愛いわよ」
「ええ!?可愛いって…先輩、僕は男ですよ?」
「ふふ。知ってますって」
「むぅ」
ぷくーっとエミーユが頬を膨らませる。だが同時に彼は少し安心していた。エラの魔力の色の黒ずみが少し薄くなっていたからだ。
…良かった…。色…少し戻ってる…。でも、まだ、安心は出来ない…や。
「先輩!海で遊ぶなら何しますか?」
…先輩の気を引けば、色は戻る?
「うーん…海で遊ぶ…。でも私、海で遊んだことってないのよね…」
「そうですか…」
二人して悩んでいるとバシャバシャと音を立ててイドラがやって来た。
「気は晴れたのか?」
さっきと違い、イドラも水に濡れている。水も滴るいい男とでも形容できそうだ。褐色の肌と海の水。女子がキャーキャー言いそうなシチュエーションだ。
…気は晴れたのか、って、そう言えばさっき私ってば彼に八つ当たりしたんだったわ。
それで心配して見に来てくれたのだろうか。どうにも彼がそんな優しい性格には思えないが、国民には慕われていたしそういう面もあるということ?
「ハンニバル様…、先程は失礼しました。もう大丈夫ですよ」
ペコリとイドラに頭を下げた。
自分でも自覚があるが最近また情緒不安定になっている気がする。
「……」
エラはじっと見てくるイドラの視線に首を傾げた。
「あの、何か?」
「…馬子にも衣装、だな」
視線の先にはエラがいる。水着姿のエラだ。その事に気付いたエラはムッとした。
「…それ、褒め言葉ではありませんわよ」
「ああ、知っている」
「…相変わらず口が悪いですわね」
「お互い様だろ」
仲が良いのか悪いのか、そんなやり取りを見ていたエミーユはエラの魔力の色が戻っていくのを確認してそっと胸を撫で下ろした。
「イドラ先輩も、一緒に遊びませんか?」
「え、彼も一緒なの?」
あからさまに嫌そうな顔をしたエラを見てエミーユはクスッと笑ってしまった。
「…嫌なら、別にいい」
ふいっとそっぽを向いて浜辺に戻ろうとするイドラをエラは慌てて引き止めた。
なんだかんだやっと彼の警戒心が解けてさっきだって今だってこうして様子を見に来てくれたようだ。イオニコフがあちら側にいるならイベントに逆らっている二人を手放すわけにはいかない。
「そ、そんなこと言ってませんわ!お待ち下さい!」
パシッとイドラの手を掴む。それに驚いてイドラは目を丸くした。正直、エラが積極的に接してくるとは思っていなかったからだ。少しずつ、何かが変わりつつある。
…こいつ…こういう所、あるんだな。
上目遣いになって必死に引き留めようとしている姿にイドラは少しくるものがあった。相手が水着だからだろうか。最初に着ていたパーカーはさっき部屋で脱いでいたので今の彼女は水着を着ている場所以外は白い肌が露になっている。
思わず、まじまじと見てしまった。
「…イドラ先輩、女性の肌をそんなにじろじろ見るのは失礼ですよ」
にゅっ、とイドラとエラの間にエミーユが割って入った。じとーっとした目でイドラを睨む。
「…大袈裟だ。そんな気はない」
「…本当ですか?」
じーっと黙り、二人が睨み合うような空気になったのでエラが間に入った。
「あ、あの!な、何しますか?泳ぎますか?それとも…砂のお城でも作ります???」
空気を変えようと思っただけだったのだが、とても子供っぽい提案をしてしまったと急に恥ずかしくなる。
恥ずかしさでプルプルと震えるエラを見てイドラとエミーユは吹き出した。
そんな三人のやり取りを遠くから見ていたのは他でもない、イオニコフだ。ビーチバレーをしながら、視線は海で三人で楽しそうにしているエラの姿を追っていた。それに気付いたのはリチア。少しでも間があるとイオニコフの視線はエラへと注がれていた。けれど、本人がその視線に気付くことはない。
「…ね、イオ様」
「ん?なんだい?リチア」
「…彼女も、こちらに呼びましょうか」
ポーンとボールが高く跳ねる。ボールはイオニコフのテリトリーに落ちてきたがリチアの言葉に動揺し、取り損ねてボールは砂浜をコロコロと転がった。
リチアはそんなイオニコフに微笑みかけて、海の中にいる三人に声を掛けた。




