第十一夜 ①ー3
☆
「わー!広いビーチですね!」
「うっとおしい人混みがいないっていうのが素晴らしいよねぇ」
「パラソルはこの辺でいいか?」
キースが浜辺にパラソルをサクッと差し込み準備する。ローレンがその隣にビニールシートを敷く。
「エドワルド君、ビニールシートは敷けましたよ」
「ありがとうございます、ローレンさん」
そんなやりとりの横で海を眺めるイオニコフと遅れてやって来たイドラも合流する。
「…おい、イオニコフ」
漆黒の髪をポニーテールに束ねた美男子が声に振り向く。
「なんだい?イドラ」
「…何か、あったのか?」
イドラは眉をひそめる。
「…別に。どうしてそんなことを聞くんだい?」
イオニコフがそう答え、イドラがさらに訊ねようとした時だ。
別荘の方角から賑やかな女の子達の声が聞こえてきたので浜辺にいた全員が声の方に振り向いた。
「ほーらっ!大丈夫よ!自信をもって!」
「む、無理ですよ!!こんなの着たことないんですから!」
「どうしてもっていうからパーカーだって貸したのよ?これ以上どこを隠すというの?」
「そ、それはそうですけど…」
そんなやり取りをしながらリチアがエラの手を引いて歩いてきた。
リチアは髪をポニーテールにしてトレードマークのマーガレットの花を結び目に差している。水着は薄いピンクで花柄のフリルビキニだ。バスト辺りのフリルとボトムにもフリルがあるタイプ。可愛らしい雰囲気の彼女にぴったりの水着だ。そしてその後ろにいる顔を赤くして気まずそうにしているのがエラ。髪をお団子にして後ろにまとめてある。彼女の水着はパレオタイプだ。透け感のある大きな花柄で色は青色。水着の上部分は三角ビキニのような形だが、その上からパーカーを羽織っているのでよく見えない。
女子二人の水着姿にキース達は心から思った。「ここがプライベートビーチで良かった」と。
「皆、またせてしまってごめんなさい。ちょっと手間取って…」
「いや、大丈夫だ。その…に、似合ってるぞ、リチア」
キースがリチアの水着姿に顔が赤くなる。彼女を囲うようにギザイアやエミーユ、ローレン、イドラ、そしてイオニコフが集まってきた。エラは彼らの目に自分が映っていないことを瞬時に悟り、後退りして少しその輪から離れる。そして彼らはリチアに対して「可愛い」といった内容の言葉を掛けていた。モテモテだ。
…このシーン…、知ってるわ。この後…リチアが言うのよ…お揃いだって。
「あ、そう言えば」
…イオニコフと同じ髪型ねって…!!
「ふふ!私とイオ様、同じ髪型ですね」
「ああ、そうだね」
…っ!!!!やっぱり!!!!
原作と同じだ。これが主人公補正というのか。また一歩エラは後ろへ下がり距離を取る。ゲームをしていた頃と同じように端から描かれていくイベントシーンを見ているだけだ。あの日にはあんなに近かったイオニコフですら遠い。
…この後は確か…泳いだりビーチバレーなんてしてたっけ。ビーチバレーはミニゲームだったわね…。
乙女ゲーの主人公はいつだってイケメンに囲まれるんだ。心配してもらえてちやほやしてもらえて。
何度愚か者になれば気が済むんだろう。期待しては落とされて、期待しては…。馬鹿みたいだ。
…無理よ。勝てっこないんだわ、最初から。たとえどんなに足掻いたって音もなく修正される。ここに、味方はいない。
「……そうだわ…」
アイザック。たとえリチアが主人公であり続けても物語に一切影響されない唯一の相手。彼だけは絶対に味方であると言える人。信用できる人。
会いたい。
アイザックに会いたい。結局ここにはリチアにとって居心地のいい環境しかない。私には…。
このまま繰り広げられるイベントシーンを眺める気にはなれない。エラはビーチバレーの準備をし始めた彼女達がこちらを振り向きもしないことを利用してそのままその場を走り去った。




