第十夜 ②ー8
「何だ?判るのか?こいつの正体が」
「あの時、キミと生徒達は一緒にいる瞬間があったんだよね?だとしたら…」
エラは向けられるイオニコフの視線にヒュッと息を飲んだ。直感が告げている。このまま彼の発言を許してはならないと。
「あ、あの…!!」
その声はイオニコフの爆弾発言によって遮られた。
「エラは…“魔女”…なのかもしれないよ」
…え?
…は?
…何????これが最終イベントだったの!!??そんなことある????
…ここで私終わっちゃうの??イドラの個人イベントにイオニコフが乱入したのってバッドEND直行だったの????
…こんないきなり終わるの?????はぁ??????
急転直下、エラは目の前が真っ暗になった。足元から地面が崩れ落ちていくような感覚。と、同時に視界に飛び込んできたのは剣を構えたイドラの姿。剣先はこちらを向いている。
終わった。完全に詰んだ。
ゲームのように間違えたからってセーブ前には戻れない。だからアイザックと作戦を練って好感度を上げる作戦にしたのに。こんなことになるなんて。
イドラが剣を振りかぶる。
ここで終わるのか。そう思った瞬間には冷静になる自分がいた。ただ冷静に自身に迫る剣先をただ眺めていた。そうしてその剣がエラの体を引き裂こうとした刹那。
バキン…ッ!!!
と、何かがぶつかって弾ける音と強く肩を引かれた感触が訪れた。
そのままエラの体は抱き止められ、目の前には目を見開いて突っ立っているイドラの姿が映った。
それらはほんの一瞬の出来事。ほとんど何がなんだか判らない状態のエラの耳に声が聞こえてきた。
それは怒りを含んだ声。
「…だから、キミは気が早いって言ってるじゃないか」
エラの視界に漆黒の長い髪が映り込む。
その髪をなぞるように視線を上にあげていく。
「キミも王子なら人の話は最後まで聞いた方がいい」
「イオ…ニコ…フ…さま?」
エラは小さな子供が名前を呼ぶかのような覚束ない発音で自身を抱き止める男の名を呼んだ。右腕はエラを抱き締め、左手は前に突き出している。その掌の先には盾のように広がった魔法の壁、結界魔法だ。
そこまで情報を飲み込んで、やっと彼が守ってくれたんだという事に気が付いた。
「…何故だ、英雄イオニコフ。何故そいつを庇う?あんただろう、そいつが魔女だと言ったのは。実際、そいつは昼間に不気味な魔力を放った。そいつが魔女ならあれは闇の魔力。あんただってそいつの魔力に違和感を持っていたから魔女だと推察したんじゃないのか?だとしたら、魔女殺さないのはおかしいだろ!」
イドラが業を煮やしたように再び土で剣を作り出す。それはさっきよりも大きな剣。
「だから、人の話は最後まで聞いた方が良いって言ってるじゃないか。それに、どうしてそこまで魔女を毛嫌いするんだい?ボクはまだ魔女かも知れないと言っただけだ」
イオニコフはエラをぎゅっと強く抱き締めイドラから隠れるようにする。
エラは原作には全くないこの状況にただただ呆然としているしかなかった。
…一体、何がどうなってるの?こんなの原作になかった!!こうなっちゃったら手の打ち様なんてないじゃない!!!それにイオニコフって魔女エラを殺したはずなのになんで今は殺すどころかイドラから守ってるの?!!もう!!!意味わかんない!!!!!!
全部投げ出したい気分だ。いきなり魔女だと核心を突かれ、イドラにはガチで殺されそうになって、本来なら最終イベントで魔女を殺す役だったはずなのに。
…もう!!!!めちゃくちゃじゃないのよ!!!!!




