第十夜 ②ー6
それは無意識だったが気が付くとエラはイオニコフの腕の中にいた。
「ハッ!!!」
「うーん!嬉しいなぁ。君の方から来てくれるだなんて!」
まるでコントのような流れでエラはイオニコフにぎゅーっと抱き締められていた。彼は実に嬉しそうだが当のエラはというと内心パニック状態だった。
…な、何やってるのよわたしぃ~!!!!いくらイオニコフの顔見て安心したからってぇ…!!!
ぐるぐると思考がショートしそうになっているエラとご機嫌で彼女を抱き締めているイオニコフを呆然と眺めていたイドラが眉をひそめながら腕を組む。
「…貴方ほどの英雄が気付いていないわけないだろう。何故、聖女であるリチアではなくその女を選ぶ?そいつは得体の知れない女だ」
イドラが発したその質問にイオニコフはピクッと反応する。当然、エラも反応した。
イオニコフの腕の中から彼の顔を見上げる。その視線が交差することはなく彼の視線はイドラに向けられていた。
…それは…私も思ってたこと。彼ほどの英雄が何も気づいてないわけないもの。でも…聞けなかったことだわ…。
エラは彼の腕の中で不安に押し潰されそうになっていた。イオニコフが何処まで気付いているか判らない。それでもこうして抱き締めてくれたり手を繋いでくれるような暖かさが自身に向けられているなら甘んじていたかった。下手に話して掌を還されることが怖いから。
そう、怖いのだ。イオニコフはアイザックとは違う。全てを判った上で構ってくれてるわけじゃない。だから魔女だとバレた時が、なんて考えるだけでも恐ろしい。
…最悪のシナリオだから、だけじゃない。彼に掌を還されるのが怖い。だって彼はいつもこうして来てくれる。…突き放されるのは、怖い。
黙ったままエラはイオニコフの服の裾を握る。それに気づいたイオニコフはきょとんとした後にふっと笑みをこぼした。エラを安心させるように彼女の頭をポンポンと軽く撫でる。
「…大丈夫」
こそっと耳打ちするようにエラに告げる。
何が大丈夫なのかと疑問が浮かんだがその答えはすぐに出た。
「イドラ。君は少し警戒しすぎじゃないかい?彼女が怖がっているよ」
…!!!イオニコフが庇ってくれた!?
「なんだと?それほど得体の知れない奴を警戒しない方がおかしいだろ」
「うーん。まぁそれはそうなんだけど…。それでもエラは女の子なんだよ。それにまだ何かしたわけじゃないし、少し過剰に反応しすぎじゃないかい?」
「違う、こいつは昼間…!!……いや、いい。それより、答えろ。お前は何者だ?エラ・エーデルワイス」
じっと睨んでくるイドラの視線は怖かった。殺されそうな気さえする。ここで答えなければ痺れを切らせた彼に何をされるかわかったもんじゃない。だが、本当の事なんて言えるわけがない。
私は魔女です、なんて。
「それは、ボクも知りたいな。ねぇエラ、何を抱えているんだい?」
だけど嘘をついてもバレるし、バレたときの心象は悪い。本当の事は言えない。何も言わなくてもこの身が危ない。
エラは意を決したように口を開く。イオニコフの服の裾を握ったまま。
「…あの、死にたくはないんです」
イオニコフとイドラの顔を交互に見比べながらエラは話し始める。
「だから、私の話を聞いても、殺さないって約束してください」




