第十夜 ②ー4
『……やっと出たか。ったく…一体何やってたんだよ?』
呆れた物言い。通信機越しだがすぐに判る声。
「あら、アイザック。貴方から連絡してくるなんて珍しいじゃない」
画面に映るアイザックの顔を見てエラは思わず笑みがこぼれた。
そんな彼女とは違い、イドラも国民も複雑な表情を浮かべる。今目の前にいる彼女は親しい誰かと電話で話しているだけの女の子にしか見えない。だが、さっき感じた殺気の混じった負の魔力。間違いなく目の前にいる相手が放ったもの。
イドラはより一層、眉を寄せた。だが件の彼女は楽しそうに電話の相手と話しているだけだ。
「皆の者、仕事に戻れ」
イドラが国民にこの場を離れるように呼び掛ける。それから、
「おい。エーデルワイス。道の真ん中で突っ立っているのは迷惑だ」
そうエラに声を掛けて彼女の腕を掴んで人気のない方へ歩き出す。
「あ、ごめんなさい。そうですね。通行を妨げてしまいますわね」
エラが素直についてくるのでイドラはますます困惑する。そこに通信機越しにアイザックの声がした。
『お?なんだ?ハンニバルも一緒なのか。どういうことだ??』
「それはこっちの台詞よ!貴方、彼に何か言ったの?」
『何かって?』
「貴方じゃないの?じゃあ、何で彼が私に会いに来るのよ!?」
イドラに連れられて通りを外れたところでエラがそう大きな声でアイザックに訊ねた。その声に驚いたのはアイザックだけでなくイドラもだ。それと彼女の言った台詞にも。
『…何?お前今何処にいんの?』
きょとんとした様子で画面越しに聞いてくるアイザックにエラはちょっとムカッと来たのでつい声を荒げてしまった。
「水と砂の国!サバナニル王国よ!!!!」
『…まじで?』
「おお本気よ!!」
なんだかエラがプンスカと怒っている。アイザックは暫く考えてふと思い当たったことがあった。
『あ!あー。あれか。なんだ。随分素直に聞いたんだな、ハンニバルの奴』
「は?何それ。どういうことよ?」
『ちょっとな。ハンニバルに色々質問されたんで答えた事があるんだよ』
「質問?」
「お前のことだ」
アイザックの言葉にエラが聞き返すと、それに答えたのはイドラだった。エラの持つコンパクトケースを覗き込むようにして話す。不意に後ろから声がしてエラが振り返ると目の前にイドラの顔があった。目の前に美男子の顔があるものだから流石のエラもドキッとする。だが、すぐに我に還る。
…彼は今、何を言った???お前って誰?…もしかしなくても…私???
「な、なんで?私のことなんて…」
「…いい。今日はまだやることがある。用件は後で話す」
そう言ってイドラがエラのコンパクトケースをパッと取り上げ閉じる。
「あっ!何をするんですか!!」
ケースを閉じられてしまったので通話が切れてしまった。そのままイドラが再び歩き出そうとして不意に足を止めエラの方を見る。
「…な、なんですの??」
首を傾げたエラにイドラは頭に巻いていたバンダナを外して彼女の頭の上に被せる。頭の上にハテナを飛ばすエラの顔が見えにくくなるようにバンダナを調節した。
「何故、顔を隠すんですの?」
「…騒ぎにならないようにな」
エラにはイドラの意図する意味が判らなかったが、そのまま手を引かれ大通りに戻る。
その後、夜になるまでイドラの用事とやらに付き合うことになったが、顔を隠していたエラは昼間のような好奇な目と不快な言葉に晒されることはなかった。




