第十夜 ②ー2
「あ、あの…ハンニバル様?一体どこへ行かれるつもりですか?」
王宮を出てイドラはエラを街の方へと連れて歩く。
今日も今日とてサバナニル王国の日差しは強い。日差しの中を少し歩くだけで立ち眩みをしそうになる。だが、エラの腕を引いて歩いていくイドラは汗ひとつにかいている気配はない。
「あ、あの…!ハンニバル様…!!」
エラは必死にイドラを引き留めた。急にエラが歩みを止めたのでイドラは振り返る。
「なんだ?」
そこでイドラは気が付いた。汗ひとつかいていない自分と違い、エラは既にかなりの汗をかいているということに。どうやらエラは暑さに弱いようだ。
イドラは昨日、王国に到着した時のことを思い出した。
…そう言えば、あの時も今のように具合が悪そうだったな…。
その事を思い出したイドラはパチンと指を鳴らす。すると地面の砂が浮き上がり何かの形を形成していく。柄の付いた何か。柄の部分よりも長い棒の先は八本の骨に分かれそれが放射線上に伸びていく。その骨と骨の間を埋めるように砂が布が如く広がれば…。
「これは…傘、ですか?」
エラの前に降りてくる。
「土の造形魔法だ。日除けになるだろう」
…一体、何を企んでるの?
あのイドラがエラに対して優しいだなんて有り得ない。元々学園の生徒にも優しくない人間だ。敵視する相手に優しいなんて絶対おかしい。
エラは受け取ったものの警戒して複雑な表情になる。その様子を見たイドラは余程親しい者しか判らないくらいの微妙な表情の変化を見せた。心外だ、と書いてある。
「…要らなければ捨てればいい。土に還る」
イドラはそれだけ言うと再び歩き出す。その後ろ姿をエラはポカーンとした顔で眺めた。
…つまり、ホントにただただ気に掛けてくれただけってこと!?
彼の後ろ姿と土の造形魔法で出来た日傘を交互に見比べる。エラは彼にも人の血が通っていることに感動した。それと同時に寮から王国に来るまでの二日間、じっと見られていることもあったし睨まれているような視線も感じたが、ただの一度も「敵視」する発言が無かったことに気が付いた。
出会った当初でさえ「お前は何者だ」とか言われるし学園でも常に「警戒」する視線を送られてきていた。それはもうすごい圧と一緒に。しかし、それすらもない。
「……何かが…変わってきている?」
出会った頃と最近で変わったことと言えば…。
記憶の引き出しを開けて回ろうとした時だった。
「何をしている?」
声と共に影が頭上に落ちてくる。未だに日傘をさしていなかったエラに影が落ちたということは…。エラは顔を上げて確認した。
「え?ハンニバル様…何か?」
「何か?じゃない。何を突っ立っている?」
イドラはちらりとエラが持つ閉じた日傘を見やる。
「…え、と、な、何でもありませんわ」
「…本当か?」
じっ、とイドラがエラを見つめる。それは敵視している視線というよりは少し納得しかねているだけのようだ。
「ええ…っと、さ、さあ、行きましょう?何処へ行かれるのでしたっけ?」
エラはその視線を反らしてそう促す。
「…行くぞ。こっちだ」
しばらくは訝しげを見ていたが、不意にイドラは諦めたらしく踵を返してまた街の中へと歩き始める。エラは深呼吸をしてからイドラがくれた日傘をさし、後を追った。




