第十夜 ②ー1
次の日、朝になるとエラはメイドに起こされた。そして「本日はこちらのお召し物をご用意しております」と説明され、寝ぼけ眼のエラをメイド達が二、三人のチームになってサバナニル王国特有の民族衣装へと着替えさせる。てきぱきと慣れた手つきでメイド達はドレスを着替えさせ、髪を結い上げていく。普段化粧をしないエラの顔にも化粧をして馴染ませる。
エラはこんな風に着替えから化粧に髪のアレンジまでを誰かにしてもらった経験はないので緊張すると共に居心地の悪さを感じていた。
…貴族の人達は皆こんな感じなの!?自分で着替えた方がマシなんだけど!!
何処を見ていていいのやら。ただ天井を眺めながら彼女達の仕事を奪わないようにと大人しくすることにした。
☆
そんなこんなで朝早くから気力を削られたエラが次に通されたのは食堂だ。
部屋に入ると既にイドラの母と兄が揃って席についていた。
「あら…あらあらまぁまぁ…!!!」
エラが部屋に入るなり感嘆の声を上げたのはイドラの母ベルムードだ。顔の前で両手を合わせて目をらんらんと輝かせている。頬をも赤く染まっていた。
「やっぱり女の子はこうでなくっちゃ…!!!可愛いわ!!娘にしたいくらい!!」
席を立ってエラの横までやって来る。そしてエラをまじまじと眺めて彼女の手を取った。
「ふふふ…!私、娘が欲しかったのよ!一緒にお買い物とかしたりしたかったのよね」
満面の笑みでそう語り掛けてくるベルムードにエラは呆気に取られた。兄のイムラもにまーっとした不気味な笑みでこちらを見てきている。なんて居心地の悪さだ。どれだけ好意のようなものを向けられてもエラの抱えるもの全てを受け入れてくれているわけじゃないのだから、嬉しくは思えない。好意のようなものを向けられれば向けられるほど逃げたくなる。
「うーん。弟にその気が無いのなら俺が貰おうかなぁ…君を」
パチンとウインクしてイムラがエラにハートを飛ばす。エラは視線を反らしてハートを避けた。
…てかこれなに!?王族がド平民を婚約者にするって有り得ないでしょ!?そんな少女漫画じゃあるまいし…ってそうだわ、ここ乙女ゲーの世界だわ。
ひとり突っ込みながらこの状況を抜け出そうと試みる。
「あ、あの…、王家の婚約者ならきちんとした身分をお持ちの方にすべきですわ。それに私は…」
…ちょっと…!!!イドラはいつになったらここに来るのよ!?確かこのシーンもイベントにあったはずなんだけど!?
エラが後退りして距離を取ろうとした直後、食堂の扉を開けて声と共に入ってきたのは…、
「何をしている!」
王族としての衣装を纏うイドラがそこに立っている。エラは声に驚いて振り返ったのだがそこに立っていたイドラを見て、不覚にも一瞬ドキッとした。
金糸の刺繍が施された衣装は華やかで元の世界でいうアラビアンナイト風よりもファンタジー感満載だ。装飾品の宝石もきらきらと輝いてその身を飾る。褐色の肌と漆黒の髪をより映えさせるその重ねられた衣装と散りばめられた宝石が学園で見るイドラよりも一層かっこよさを引き立たせていた。
確かこのシーンはスチルになっていた。大体のイケメンは着飾るとより一層魅力が上がるもの。これには原作をプレイしていた紗夜も心ときめかせたものだ。その相手が目の前にいるものだから流石の紗夜も純粋にこのゲームをプレイしていた時の感覚を思い出していた。
「あらぁ、イドラちゃん。遅かったわねぇ」
「おお、遅かったな!ほら、見てみろよ!エラちゃん、可愛いだろ?」
イムラがそう言ってエラの肩を持ってくるりと体の向きを変えさせてイドラの方へ向けた。何故か自慢気なイムラ。一方でイドラはと言うと少し驚いたような顔をしていた。
今日のエラは学園での格好とも私服の時とも違う。左右に三つ編みの編み込みをしてそれをお団子に結い上げ、垂らした毛先を後ろでひとつに束ね金属の留め具でまとめてある。その髪もウェーブが掛かっている。肩を出したオフショルダーのドレス。フリルはそう多くはないが巻きスカートのようにひらひらと何枚も重ねられていて花の刺繍があしらわれている。
彼女もまた宝石のついた装飾を胸元につけている。それから大きなイヤリングも。耳元できらきら輝く宝石のイヤリングが白いエラの肌に反射する。それから彼女の目尻と唇には紅を点してある。
「あの…何か?」
じーっとエラを睨むようなイドラの視線にエラはびくつきながら首を傾げた。イドラに睨まれるのはごめん被りたい。彼が一体何処まで気付いているのかが判らないからだ。だが、そんなエラを置いてきぼりにイドラは徐に彼女の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
「きゃぁ」
「まぁ、イドラちゃん!女の子は乱暴に扱ってはダメよ!」
「…行くぞ」
そのままエラを食堂の外に連れていこうとするイドラを母ベルムードが嗜める。しかし、イドラはそれを無視してエラを王宮の外へ連れ出した。




