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転生先は灰かぶり  作者: 紗吽猫
イベント~夏休み・帰省~
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第十夜 ①ー7

エラは予想だにしない質問内容に呆気に取られて口をパクパクさせた。それでも更にずいっと身を乗り出して鼻と鼻がぶつかりそうな距離だ。その勢いにたじたじになるエラは後退りしようにもソファの背もたれが邪魔をして逃げられない。彼の後ろの母ベルムードに助けを求めるように視線を送るが当の彼女はこちらをニコニコとしながら見ているだけだ。

助けはないと判断したエラが意を決して口を開いた時だった。


バンッ!!


と、部屋の扉が勢い良く開け放たれ、淡々としながらもこの空気をぶち壊す声が聞こえた。


「兄貴!!!からかうのも大概にしろ!!!」


ズンズンと迫るようにエラ達の前に歩いてくると、イムラをエラからひっぺがす。


「あら、イドラちゃん。ようやくお出ましね?」


「おお、弟よ。随分な挨拶だな」


楽しそうに微笑む母と愉快そうな兄をイドラはギロリと睨む。だが二人は全く気にしていないようだった。


「だってねぇ?あのイドラちゃんが女の子を連れて帰ってきたのよ?めでたいじゃないの」


「そーそー。それに留学中に婚約者候補を探すって約束もしてたしな。とうとう見つけたのかと…」


…そう言えばそういう話だったわね。ふーん…リチアでなくとも会話の流れも一緒なのね。


「何を馬鹿なことを言っている。こいつはただのクラスメイトだ」


明らかな不快感を顔に出しながらそう訂正する。これにはエラはカチンとくる。

…じゃあ、連れてこなければ良かったじゃないのよ。そんなに不快なら。

心で思っても口には出せないが、エラは彼らのやり取りに悪態をつく。


「あらそうなの?客人を連れてくると聞いていたけど、女の子だなんて言ってなかったじゃない?だからてっきり彼女さんなのかと」


「何故そうなるんだ」


「だってお前、友達だってアイザック君しかいないだろ?それなのにわざわざ関わりを持つ女の子なんて婚約者候補くらしかいないだろ」


「余計なお世話だ。間違ってもこいつは有り得ない」


…こっちだって願い下げよ。てゆーかそんなに嫌なら私をさっさと帰してよ!


「イドラちゃん。女の子に“こいつ”なんて言ってはダメよ。失礼でしょう」


「お前はホントにレディの扱いがなってないなぁ」


…なってないのは他人に対する態度よ!てかあんた達の教育方針が不味かったんじゃないの??


「そんなものがいちいち必要とは思えない」


「イドラちゃん!!…母は悲しいわぁ…。イムラだけでなくいずれはあなたにも婚約者をと思っているのよ?そんな態度では王女様達に愛想を尽かされてしまうわぁ」


…王女って…そらそうよね!王子だもん。婚約者はお姫様よね!じゃあ何で私と付き合っていると思ったのよ!?身分が違いすぎるでしょ!なら何か!?付き合ってたら嫌がらせでもして追い出してたって訳!?!?


「……はぁ…、付き合ってられん。行くぞ」


溜め息をついたイドラはエラの腕を掴んで立たせる。心の中で悪態を付きまくっていたエラは驚いて対応出来ないまま腕を引っ張られる。


「え!?ちょっ…!!」


「イドラちゃん!そんな風にしてはいけないと!!!」


引っ張られたままエラは応接間を後にすることになった。廊下をすたすたと歩いていくイドラに応接間の前から母がそう叱ったが、イドラは振り返ることもしなかった。






パチン。


扉のすぐ横の球体に触れると部屋全体の明かりがパッと灯る。


「ここを使え」


イドラに連れてこられたのはどうやら客室らしい。ここもアラビアンナイトの世界を彷彿とさせるレイアウトの部屋だった。床に敷かれた絨毯がまるで某映画の魔法の絨毯を思い起こさせた。

イドラは部屋の中へ入り簡単に室内にある備え付けの家具について説明をしていたが、エラの耳には入っていなかった。

…え?客室????一体何が目的なのよこの男!!!これがこの世界じゃなきゃこんなアラビアンナイトみたいな部屋で泊まれることに素直に喜べるのに!!!


「…おい。聞いているのか?」


「え!?あ、えっと、はい」


「…嘘だな。聞いていなかっただろ」


眉間の皺が深くなる。


「まぁ、いい。とりあえず、今日はもう何処にも行かない。ゆっくり休め」


部屋の入り口で突っ立っていたエラの頭をポンポンと軽く撫でてからイドラは部屋を出ていく。


「夕食の時間のなればメイドが呼びに来る。ではな」


パタン…。


イドラが部屋を出ていって扉を閉めた後エラは呆然とその場に突っ立っていた。


…は?今のなに?????


頭を撫でた?あの男が????

ドッ!っと滝のように汗が吹き出してエラはその場にしゃがみ込んだ。ようやく敵が去ったような安心感と今まで張っていた緊張の糸がほどけてぐったりと疲れが出てきた。

まとまらない思考をまとめようとベッドに寝転んだが、やはり頭が回転しない。


「…帰りたい…」


まるで敵地に潜り込んだかのような現状にエラはポツリと呟いた。


帰りたい。元の世界に。こんな思いをしなくていい世界に。朝起きて学校に行って皆と他愛もない話をして。帰って来てご飯を食べてお風呂に入って大好きな布団で眠る。そんな何でもないけど幸せな世界。帰ってしまえばもう魔女だから殺されるだなんて怯えなくていい。

エラはこの世界に来て初めてのホームシックを経験した。けれど、ここに召喚ではなく転生で来てしまった以上、元の世界に戻ることは二度と叶わない現実だけがエラを待っていた。


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