第十夜 ①ー5
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王宮の外見は簡単に一言で表すなら「まるでタージ・マハルのよう」だった。タージ・マハル自体はムムターズ・マハルという王妃の霊廟として建てられた建物だが、それと同じ様な見た目だった。白を基調とした建物。広大な庭。圧巻だ。きらびやかな装飾もふんだんにあしらわれている。
圧倒されて失礼と判っていてもついキョロキョロしてしまう。
その間にも王宮の扉が開かれ、その奥に広がるのは何十人と左右に分かれて整列するメイド達。
一斉にお辞儀をしてメイド達がイドラを出迎える。ドラマでしか見た事のない光景にエラは口をパクパクさせてドン引きした。思わず後退る。その時、エントランスホールの外から馬の鳴き声が聞こえて振り返った。そこにいたのはエラ達が乗ってきたあの馬車だった。メイド達が馬車から荷物を降ろしていた。
…は?え!?何?なんであの馬車がここにいるのよ!?荷物を届けるなら私達もわざわざ王宮までくっそ暑い中歩かなくても良かったんじゃないの???
馬車を降りたのは砂漠の入口とも言える港の近くだった。そこから魔法で王国の中にワープしてそこからここまで炎天下の中を歩いてきたというのに。しかもエラの服装は日焼け防止の長袖にロングスカート。それに色は黒系。熱をしっかり吸収する色だった。お陰で体力の消耗も水分の減りも著しい。汗もだらだらと流れているのだがイドラは気にする素振りなぞ一切見せなかった。
…そりゃこの国で生まれ育ってたら平気なのかも知れないけど、普通客人をこんな慣れない土地で歩き回らせる??こんなぜぇぜぇ言ってる人間に…。荷物よりも立場が低いってこと!!??
じゃあ、一体何故に連れてきたのかと憤る。そんなエラを置いてきぼりに話は進み応接の間に通された。さすがに王宮内は涼しくなっていてエラも生き返る。執事長を名乗る渋いお爺さんに促されてソファに腰掛けた。だが、イドラも御付きの者も何処かへ行ってしまった。
ソファに腰掛けたエラにメイドの一人が冷たい飲み物を用意してくれたのだが、水を欲する体とは裏腹に心はその飲み物を疑いまくってしまう。
正直に言ってここまでのイドラの行動や態度には不信感しかなかった。何一つ説明せず、王族という威圧感だけで言いなりにしようとしているようにしか感じられない。しかもその相手は出会ったときから人の事を敵視してくるような奴だ。今までだってリチア達と一緒に居たってずっとこちらを睨んで来ていた。まだ魔女だと気付かれていないとしても敵視されたままなら何をされるか…。
…反射的だったとはいえついてきてしまった自分を恨むわ…。いくらこれが好感度が高い場合に起こる帰省イベントだとしても来るべきじゃなかった。灰かぶりのエラがシナリオ通りに進めたとしてもどうせ結果はろくなもんじゃないのよ。そんなの、道中の扱いを見れば一目瞭然じゃない!…私は馬鹿だわ。どんなに足掻いたって所詮、主人公にはなれないのに…。…イオニコフが上手くいけてるからって誰でも攻略出来る立場じゃないことはわかってたでしょ…!
自分で自分が嫌になる。疑っているはずなのに何処かでつめが甘い。それは有り得ないと頭で判っていても何処かで期待してしまっているからだろう。自分でも最悪のENDを回避して幸せになれるんじゃないか、と。
英雄だけでなく天使も好意的に見えるから、灰かぶりでも魔女でも幸せになれるんじゃないか。そんなことが過ってしまうのだろう。紗夜が魔女でも受け入れてもらえるんじゃないかと。
魔女だと判ったあの日と同じ転生者である協力者が現れた日、この分岐はエラにとっては大きなものだった。心が軽くなった気もした。だから人目を避けながらも攻略対象に接するようにしてきたのだが…。
…彼だけは間違っている!!!!




