第九夜 ⑥
☆
「あっはははははは…!!」
大通りを抜け学園に戻る帰路についた。その道中で思い出し笑いをしていたのはイオニコフだ。
そろそろ日も傾いていきて空はオレンジ色に染まっている。茜雲も横引く空の下でバツの悪そうな顔をしているのはエラだった。
「…そこまで笑わなくてもいいんじゃありません?」
腹を抱えて笑うイオニコフを嗜める。涙目になっているイオニコフは実に楽しそうだ。
「くっくくく…!!ふ、ふふ…ッ。だ、だって…仮にも魔法学園に通う生徒がさ…物理だなんて…!しかも、傘で…ッ!」
ヒーヒー言いながら笑うイオニコフにエラは恥ずかしい思いでいっぱいだ。
「そ、そこに武器になりそうなものがあったんですもの…ッ!それに私は魔法苦手なんです!」
あまりに笑われ過ぎてエラはぷくーっと頬を膨らませた。
…いくらこっちの世界に慣れてきたと言っても、魔法なんて馴染み無いんだもの!
元の世界には魔法は存在しなかったので日傘で殴る方がずっと馴染みある行動だった。
ひとしきり笑ったイオニコフは暑くなったのか手でパタパタと顔を扇いでいる。
「あー可笑しかった。…本当にエラは心配させるのも笑わせるのも上手だよね」
「はい?」
どういう意図で言ったのかは判らないが褒められている気はしない。エラはちょっとムスッとした。しかし、イオニコフにはそんなエラが可愛く見えていた。色々な表情を見せてくれるのが嬉しいのだ。
「はい」
「え?何ですの?」
急に差し出された手にエラは驚く。
「ほーら。手、出して。繋いで帰ろう?キミは放っておくとまたふたふらと居なくなっちゃいそうだからね」
「ちょっと…流石にもうそれはしませんわ。…学園が見えてきたら離しますわよ?」
エラはちょっと口を尖らせながら差し出された手を握る。イオニコフは嬉しそうに握り返した。
「わかってるよ!」
そうして二人は帰路についた。エラは日が沈んでいく空に一番星を見つけて眺めていたが、イオニコフは先程の嬉しそうな表情と裏腹に少しだけその顔に影を落としていた。




