第九夜 ④
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城下街を散策する。イオニコフとエラは相変わらず手を繋いだままだ。そのお陰か彼の機嫌が良く笑顔な為、道行く人も振り返ってはイオニコフを見てその美貌にため息をついていく。中にはふらりと倒れそうになっている者もいる。学園では見慣れているのか倒れる人まではいないのだが、城下街では続出している。
…モテるっていうのもなかなか罪ね…。
日傘で顔を隠しながら隣を歩くエラは染々と思う。
城下街は魔法道具も溢れていて街に住む人々も人間だけではなく他の種族も一緒に暮らしている。紗夜はここが本当にファンタジーの世界なんだということを実感した。道路標識や信号なんかもまるでホログラムのようにその場に映し出される。乗り物は元の世界の歴史の授業で習った中世風のものが多い。ただ、原動力はガソリン等ではなく魔法をエネルギーに変換したものだ。通信機器も魔法を施したもの多い。自作する人もいるがその多くの人は市販に流通している魔法道具を使っているようだ。
「珍しいかい?」
キョロキョロしすぎていたのか不意に話し掛けられた。イオニコフはエラの興味津々に周囲を見ている姿を見てクスクス笑う。新鮮な反応だ。とはいえイオニコフも百年程眠っていたので様相の変わった城下街を見て回るのは楽しいものだ。
「え、ええ、そうですね。学園の中って意外とこういう魔法道具って見掛けないので…なんだか新鮮だなって思いますわね」
「あー…そう言えばそうだねぇ。魔法道具は基本的に魔法が使えない人々の物だからなぁ」
「そう言えば、魔法道具っていつから普及したんですの?」
「え?ああ、そうだな…ボクも詳しくはないけど…百年前には魔法道具は一部の上流貴族くらいにしか流通していなかったはずだよ」
「あら、じゃあ意外と最近なんですね」
それでも住人にとってありがたい事だろう。力仕事も魔法道具があれば楽なものだ。それでも伝統工芸品のような物は職人の手によって造り出されている。魔法を使った工芸品もあれば手作業のものもある。
散策しながらウィンドウショッピングをして歩く。男性はこういうのは嫌いかと思ったがイオニコフは案外好きなようで入る店でことあるごとに「これがエラに似合いそうだ」と商品を持ってくる。エラはその都度「女性が喜びそうな彼氏になりそうだ」と思った。これでセンスが無いのなら冷めた目を送ろうもんだが、イオニコフはかなりセンスが良かった。毎度エラのツボをついてくるチョイスだった。
イオニコフは何かとプレゼントをしたがるのだがエラは申し訳ないからと断り続けることになる。そんなやり取りを何軒かの店を跨いで行っていた時だった。イオニコフがまだ店に残っていてエラは一足先に店を出た。その時にふと、城下街の大通りを外れる路地が目に入った。大通りはキレイに整備された石造りの街並みだが路地に入ると様相が変わる。それこそ異世界にでも迷い混みそうな独特な雰囲気があった。
エラは何となくそこに踏み入れる。綺麗な街並みと違いそこは少し古びた世界。どことなく元の世界で見掛ける裏路地の雰囲気に似ている。ゴミが落ちていたり剥げた塗装の壁に苔や蔦の伸びた壁。
まるで誘われるようにしてエラはどんどん奥に入り込む。薄暗い、そのまま闇に溶けていきそうな感覚だ。
…何かしら…何処か懐かしい…。




