第九夜 ③
…え?な、何よその反応…!!?図星、図星なの!!??
そんなことある!?と口に出してしまいそうになる。だってこれではイオニコフがやきもちを妬いたことになってしまう。だが考えてみればイオニコフがやきもちを妬くのは何も初めてではない。アイザックと二人で話していたこともそうだし、今回お出掛けすることになったきっかけだってエミーユと二人で話していたことだった。
プイッとそっぽを向くイオニコフをエラはまじまじと見つめる。彼にこんな姿は原作では見たことがない。
…実際の彼は結構やきもち妬きってこと?ってそれよりも…これって好感度がだいぶ高いってことでいいの!?
プレイ画面のように貯まった好感度をチェック出来ないのが攻略の難しいところだ。これがゲームのままなら一目瞭然だったのに。
「…イオニコフ様は気にしすぎです。そもそも私は日傘で顔を隠してましたもの。だから皆様の視線は貴方に注がれていたのです。それに、多くの方から視線を注がれるならリチア様のような方ですわ」
ひとまず話題を変えようとエラはイオニコフに話し掛ける。彼の反応を見ようと視線を向けるが彼と視線が合うことはなかった。そっぽを向いたままだ。どうにもエラの前では子供っぽい姿が目立つ。原作にはなかった一面だ。
「ねぇ、イオニコフ様。せっかく街に来たのですから散策しましょう?案内いしてくださるのでしょう?」
エラはイオニコフの顔を覗き込みながら提案する。イオニコフは小さくため息をついてから頷いた。
「はぁ…キミは…キミは気にしなさ過ぎなんだよ…。…まぁ、うん。判った。行こうか」
イオニコフはエラを少しだけ寂しそうな顔を浮かべる。
「…ねぇ、エラ。その前にひとつだけいいかい?」
「え?何でしょう?私に出来ることですか?」
「…さっきみたいにさ…愛称で…呼んでほしいんだ」
「愛称でって…でもそれは特別な相手に許される事ではないのですか?イオニコフ様は英雄で大魔法使いですし私のような下々の人間には…」
エラがやんわりと断るような返事をするとイオニコフは酷く傷付いたような表情をした。それから、何かをぐっと堪えるような顔になる。
それを見たエラはズキンと胸が痛くなる。何やらイオニコフを傷付けてしまったようだ。それほど失礼な事を言ったわけではないはずだ。だとしたら何を間違ったのだろう。
…そう言えば…イオニコフはずっと言ってたっけ…?名前を呼んでほしいって…これも…そういうこと?
「そうだね…うん。ごめん…何でもなー…」
「あっ、あの…!!イオニコフ様、その、二人…二人だけの時なら…」
作り笑顔でイオニコフが話題を変えようとしたときにエラが声を被せた。
「イオニコフ様は英雄で、でも私は“灰かぶり”です。学園のようなところで愛称で呼んでいるのを聞かれると…虐めがエスカレートしかねないですし、イオニコフ様に対する印象もきっと悪くなってしまいます。ですから…公の場では難しいですが、こういう二人だけの時なら、愛称で…呼ばせてください…」
その言葉にイオニコフは嬉しくなったのかガバッとエラを抱き締めた。
「きゃあっ!?」
ぎゅーっと強く抱き締められてエラは困惑した。そんな彼女を他所にイオニコフは嬉しそうにしている。エラとしてはなんとも言えないというのが本音だ。これで魔女であることを受け入れてくれた上でなら喜べるのだが…。
そんなエラを知ってか知らずかイオニコフは甘えるような表情で抱き締めたまま彼女の頭の上に顎を乗せた。なんだか大きな猫にでも甘えられているようだ。見上げてイオニコフの顔を見てみると視線が合う。嬉しそうにこちらを見つめてくる。そんな彼の表情を見るとどうしても彼に敵意などがあるように見えないし好意を持ってくれているようにしか思えない。
「じゃあ、今日はデートなわけだし、愛称で呼んでくれるかい?」
「え、ええ…わかりました。イオ様」
「ふふ…ありがとう、エラ」
こんなやりとりをしてしても頭の中ではどこで掌を返されるのか判らないと言った考えが過る。イオニコフ程の魔法使いが半覚醒状態とはいえ気が付いていないわけない…。不安にかられながらもエラはイオニコフとのデートイベントを遂行する事に集中することにした。




