第九夜 ②
☆
「さて、何処に行きましょうか?」
学園から離れた首都にあたる城下街の入り口にやって来た二人。
エラはイオニコフを誘ったわけだが、特に何がしたいというのがあったわけではない。その為、ほとんどノープランだった。
「キミが何処か行きたかったわけじゃないのかい?」
結局、街についた今も手を繋いだままだ。エラは途中で手を離すことも考えたのだが何故かイオニコフの方が離す気配が無かったのでそのままにした。手を離したがらない理由は判らなかったが好感度を上げる為と思えばいい。問題はこんなところを虐めっ子に見られないか、だ。そう考えるとつい日傘で顔を隠しがちになる。
「い、いえ…あの…実は特に行きたいところがあったわけではないのです」
「そうなのかい?」
「えっと、街…そう、街そのものに興味があるというか…」
「キミは…もしかして街に来たことがないのかい?」
「えっと、そう、そうなんです。街に寄る暇もなく学園の寮に入ったので…」
「そっか…なるほどね」
ふむふむと納得したようにイオニコフは街を見渡す。
「じゃあ、街を探検しないかい?ボクも百年ぶりだからよく知らないんだ」
にこっと笑顔でイオニコフは提案する。エラは彼が怒ることなく付き合ってくれそうなことに安堵した。
そのままイオニコフに手を引かれて街を散策する。
通り過ぎる人々が思わず振り返っていく。男女共にチラチラと見てくるのでエラは「美男子っていうのも大変ね」等と考えていた。
そんな彼女とは違い、少し不服そうにしながらイオニコフはぐいっと手を引いてどんどん歩いていき始めた。強く手を引かれてエラは少し驚いた。わらわらと集まってくる人々を振り払うようにイオニコフが早歩きで街を抜けていく。最早散策どころではない。
「あ、あの…どうしたんです!?イオニコフ様!?」
必死にイオニコフに声を掛けるが振り返ることなくずんずんと歩いていく。そうして街を抜けていくと大通りを抜けて人気の少ない小路に出た。住宅街といった雰囲気の場所だ。石造りの住宅が並んでいる。
キョロキョロと周りを見渡してみる。学園の寮などとは違い少し古い作りの建物だ。エラが周囲に気を取られていると急に背中にぶつかった。イオニコフの背中だ。
「えっと…?」
エラは困惑した様子でイオニコフを見上げる。目に映るイオニコフはなんだか不機嫌そうに見えた。
…あれ?何で不機嫌なの!?えっと…やっぱり愛称で呼んだのが不味かった?失敗した?
一気に不安が募る。繋いだ手を離したがらなかったから上手くいったことを期待したのだが…失敗したのかもしれない。そう頭に過った。どうしよう。イオニコフの顔が見れない。冷や汗を掻きながらこの沈黙の時間を過ごすのは心臓に悪い。意を決して訪ねてみる。
「あの、どうかされましたか?その…私…何かしてしまいましたか?」
遠慮がちにそう聞いた。エラはイオニコフの表情を見ようとその顔を覗き込んだ。
…あ、悔しそう…?
何故か悔しそうな表情だ。覗き込んできたエラに気が付いたイオニコフはバチッと目が合った。
「あの、イオニコフ様?何かあるなら仰ってください。私が何かしたなら非礼を詫びますわ」
再びそう聞かれたイオニコフは少しバツが悪そうな顔をしながら答えてくれた。
「…キミが悪いんじゃない…。ただ…」
「ただ…?」
この時、エラは握られている手に力が込められたことに気が付いた。相変わらず手を離したがらないようだけど…。
「……キミが目立ってたから…」
「…? 先程の人々のことですか?でもあれは私ではなくイオニコフ様の事を見ていらしたのでは?イオニコフ様はとても素敵な見目をしていますし…」
「違うよ。男達はキミを見てた。…鼻の下を伸ばしながら…」
口を尖らせながらそう言うイオニコフ。エラには言っていることが良く判らなかった。もし仮にそうだとしてもそれでイオニコフが不機嫌になる意味が判らない。そもそも、それほど美しいわけでも美少女でもないエラが男性の目を引くなんてことはないだろうけれど。
「そのようなことはないと思いますが…もしや…それでこんな人気のないところまで来たんです?」
まさかそんな理由で、なんてないと思いながら聞いてみたのだがイオニコフの顔がカァ…!と赤くなったのを見てエラは思わず固まった。




