第八夜 ⑥
「…別に…強いわけじゃないわよ?魔力の見込みを買われて落ちこぼれからSクラスになれたけど未だに力加減は苦手だし、泣いたことだってあるわ。学園から逃げ出そうと思ったこともね」
「え?そうなんですか?そんな風には…」
自分が魔女だと発覚した時の絶望感は今でも忘れていない。あの瞬間に全てを悟った。虐めは無くならないことと自分の命に危機が迫っていることを。
「でもね…話を聞いてアドバイスをくれる人を見つけたの。だから私は今でもここに立っている。ひとりぼっちじゃ流石に心も折れてたわ」
少し笑っているような顔でため息をついた。やれやれ、でも言いたげな表情。エミーユにはそれが心に余裕があるように見えた。
…話を聞いてアドバイスをくれる人…その人が、先輩を支えてる?
エミーユは急にその人に興味が湧いた。それから、自分にとってそれは誰なのかとも考えた。
…それに先輩の言葉には嘘がない…。
天使族には特殊能力があってそれは嘘をついているかが見えるということだ。中には魔力で心を読めないようにしている者もいるのでそれは例外となるが、基本的には放つ言葉に色が見えるという。真っ赤な嘘なら赤く染まる。エラの言葉には赤い色は見当たらなかった。
それは“信用して良い相手”という証でもあった。
お世辞でもなく打算的でもない真っ白な言葉。灰かぶりと言われて虐められている人間とは思えないくらいだ。
「どうしたら、先輩みたいになれますか?」
心の中で思ったことがつい口を突いて出ていた。ハッとしてエミーユはそれを無かったことにしようとした。
「あっ…!すみませんっ!!今のは何でもない…」
言葉の最後を遮るようにエラが声を上げた。
「私みたいになっちゃダメよ!」
その声にエミーユは驚いたのだが、もっと驚いたのはエラが彼の手を握ってきたことと、その表情が必死なものだったからだ。
「何をどう思ってそんなこと考えちゃったのかわからないけど、ダメよ!私みたいになったら苦労するだけよ!?貴方はここでそんなに苦労はしていないでしょう?貴方のことが好きだって人はたくさん聞くわよ?リチア様だって貴方の事を気に入ってるみたいだったし…私みたいに敵の渦中にいるような経験する必要はないわよ!!」
ぎゅうう…っと力を込めてエミーユの手を握って必死に訴える。攻略キャラの中でも癒しだと評判で人気の高い彼が苦労する必要はない。そんなのは誰も望んでいない。それにエミーユには心を闇に飲まれてしまうバッドENDが存在する。それを阻止出来なければ今後のエラを待っている重大局面でどんな悪影響が出るか予測が立たない。只でさえ殺される未来が見えているのに、それを覆すために対象の攻略を決意したばかりなのに、とんでもない話だ。
と、そう訴えたのだが、そもそもエミーユはそんな意味で言った言葉ではなかった。
「え?あ、そういうつもりじゃ…!!何か勘違いしてますよ!」
「へ?」
「あの、僕が言いたかったのは、どうしたら先輩みたいに、その…強く生きられるのかなって…」
ああなんだ、そういうことか。と納得したと同時に勘違いをした恥ずかしさから顔が熱くなる。
「え、ええと…そ、そうなのね!じゃあ、うん大丈夫ね!!」
一体何が大丈夫なのかは判らないが恥ずかしさから訳の判らないことを口走る。絶対に顔が赤い。




