第八夜 ⑤
「いいえ、別に私は好き勝手に個人的な意見を言っただけよ。でも、気持ちが楽になったなら何よりだわ」
エラも席を立つ。好き勝手に話しただけなのでこれで良かったのかは少々不安ではあるが。
「はい。少し気持ちが軽くなりました。…先輩は…その…片翼の天使に会ったことがあるんですか?ほとんどの人が片翼しかない天使を見ると驚いたりがっかりしたような顔をするんです。でも、先輩はそんなことなかったですよね」
…そうか。この世界ではエミーユ以外には片翼な天使って存在しないのか…。この辺はゲーム通りって訳ね。
「んー、そうね…実物を見たことはないわ。私が見たのは石像よ」
「石像…ですか?」
「そう。私はその石像が好きだったの。だって片翼であっても凛とした姿だったのよ。かっこよかったわ」
高校の卒業旅行で見に行った時の事を思い出す。あの時に感銘を受けた。といってもこの世界にはそんな石像は存在しない。エミーユには何のことか全く判らなかった。
「…先輩は…すごいですね」
「ん?」
エラはきょとんとした顔でエミーユを見る。
「…だって先輩、灰かぶりって言われて虐められているんですよね?それなのに…今だってはっきりと自分の意見を述べてて…怖くないんですか?自分が何か言ったら笑われるんじゃないかとか、否定されるんじゃないか、とか」
エミーユが言うのは虐めの中によくある光景のことだ。確かに全員から無視されるとかはよくある事だ。そしてエラは実際にそういったことも経験していた。ただし、それは一年生の時のエラであって今の紗夜になってからはそんな事をされても鼻にも掛けないので効果がないと早々に消えた行為だ。ついでに言うとリチア達が同じクラスにいるのでそういった行為を表立って出来ないというのも理由のひとつ。
「…別に…気にしたこと無いわね、そこは。だって、他人がなんと言おうと私に関係はないもの」
きょとんとした顔でエラは言った。けれどそれに驚いたのはエミーユだ。エミーユはエラが落ちこぼれと言われていることも知っていた。最初の接触の後で“灰かぶりのエラ”についてエミーユは噂を集めていた。リチアやキースにも彼女がどういう人物なのかを聞いて回っていたのだ。そこで得られたのは彼女は虐められようと泣くことはなく、また虐めがあった後でも平然としているという事。
「…どうして先輩はそんなに強いんですか?」
同じ様に冷遇された経験があるのに、何故彼女はこうも凛と立っていられるのだろうか。
エミーユは一族から逃げるようにこの学園に入学した身。この学園は人間、天使、竜人、それからエルフと多岐に渡った種族が同じ人型を模して生活する場所だ。圧倒的に人間が多いのだが人間達と同盟を組んでいる種族は留学といった形で学園に通わせている。
そんな場所であれば片翼でもそれを隠して人のふりをすれば自由にいられるんじゃないかと思って留学した。天使の翼もこの講堂で舞の練習をするとき以外は一切見せることはない。その為、学園の全員と言っても過言ではないくらいには誰もエミーユ・ミッドナイルが天使族であることは知らない。原作でも最終的にその事を知ったのは主人公と彼の地元に住む人間達くらいだったはずだ。
そうやって逃げてきた彼にとって、現在進行形で虐められているのにも関わらず話すときははっきりと自分の言葉を持ち、時には目を合わせることが出来るエラが不思議でならなかった。




