第八夜 ④
「片翼だから天使じゃないなんてことも無いし、気高さが無いなんてこともないわ。だって、片翼だって天使は天使なんだもの。その真っ白な翼は天使である証、でしょう?堕転して片翼になったわけでもないのなら尚のこと。枚数なんて関係ないじゃない。そんな事を比べて貶める方が醜いってものだわ」
ずっと言いたかった言葉だ。プレイしながら掛けたかった言葉。それをやっと直接言えたのでスッキリしたエラはちょっとドヤ顔をしていた。
反対にエミーユは何とも言えない顔をしていた。
「関係、ありますよ。だって片翼は落ちこぼれ。翼の枚数は位の高さを表すんです。だから…」
「だから、何ですか?」
言い淀んだエミーユにエラがぴしゃりと言葉で遮る。
「そんなつまらない理由で仲間を貶めるのが天使なんですか?」
「!!」
その言葉にエミーユは驚いた。まるで他の天使を侮辱するかのような言い方だ。とても他の天使族には聞かせられない。
「…私は、片翼の天使の気高さを知っているわ。腕や頭部が無くたって、気高い、人々を魅了し続ける天使を。完璧でなくとも、完全じゃなくても天使であることに変わりがないことも、知っているの。例え貴方の一族が片翼を認めないと言っても恥じることなんて無いわ」
芯の通った声。真っ直ぐな言葉にエミーユの心は揺れた。そんな天使が居ただろうかとエミーユは考えたが思い当たらない。自分以外に片翼の天使が居たのなら話題に上るからだ。だがしかし、そんな話題も噂も聞いたことがない。一体、誰のことを言っているのだろう。ぼんやりとした頭で考えたところで答えは出なかった。いや、出るはずもない。
「私だったら、誰かを貶めるような天使よりも、落ちこぼれと言われ貶められても相手を憎まず真っ白な翼を持ち続けている無垢な貴方の方が好みだわ」
エラはエミーユに微笑みかける。
「誰にでも優しくて嘘が嫌い、そして誰かを恨まぬ真っ白な片翼の天使様。これ以上に純白と謳われるにふさわしい天使は他に無いと思うのだけど?」
確か「純白」はこの世界の天使における褒め言葉で曇りひとつ無い心を持つことが至高とされる「純白の天使」のことを指す。心の曇りは翼の色に反映されるという。いくら翼の枚数があってもその色にくすみがあれば…。卑しさや恨み、妬みといった感情から心は曇り翼も変色していく。だから翼の色を見れば心の清らかさは一目瞭然だ。
「エミーユは誰よりも気高い天使様、でしょう?」
自然と笑みがこぼれた。片翼であったって真っ白な翼と天女のような舞が舞えるエミーユはもっと自信を持っていいはずだ。
エミーユはエラの言葉に少し涙が零れそうになった。一族の誰もが認めてくれなかったとしてもここにこうして認めてくれる人がいる。姉とは別に。
「…やっぱり先輩は姉さんみたいですね」
ぐっと零れそうな涙を堪えてエミーユは笑う。
「…?どういうこと?」
「姉も…言ってくれたんです。片翼でも真っ白な翼が誇りだって」
思い出すような懐かしむような表情にエラはつられて微笑んだ。
…本当にお姉さんのことが大好きなのね。それにしても…。
エミーユは先程のような表情の陰りが無くなっていた。主人公が与える言葉とは大分違ったのだが、それでも彼の心を軽くすることは出来たということだろうか。
「先輩、ありがとうございます」
エミーユはスッと立ってエラに向き合う。ニコッと笑ってみせる。その表情は晴れやかなものだった。




