第八夜 ⑦
そう考えると余計に恥ずかしくなってきて気まずさからエラはそそくさとその場を去ろうと考えた。座席を離れて講堂の入り口に小走りで移動する。それを慌ててエミーユが追う。
「あ、ま、待ってください!先輩!」
パシッとエラの腕をエミーユが掴む。手足の長さは彼の方が上だ。
「あの、ひとつ聞いて良いですか?」
「へ?な、何かしら?」
未だに火照ったままの頬を抑える。だがそれは次の言葉で一瞬にして冷めた。
「…どうして先輩の魔力は灰色みたいな変な色なんですか?」
瞬間、ドキンとエラの心臓が大きく跳ねてそれと同時に背筋に悪寒が走る。魔力の色なんて普通の人間には判らない。そんなものがあることを知っている人もそう多くない。専門家でもない学生なら尚更だ。
…嘘…バレた!?やっぱり接触なんてしない方が…!!
今さら後悔しても遅い。ただ、まだ幸いだったのは“変な色”という認識だったことだ。完全に魔女であるとバレたわけではなさそうだ。とは言え、相手は天使で嘘を見破れる。下手なことは言えないが本当のことも言えるわけがない。まだ、その時じゃない。
「……」
俯いて黙るエラをエミーユは困ったように見つめる。
…聞かない方が良かったかな?でも、だっておかしいんだ…言葉は真っ白なのに…魔力な灰色だなんて…。
片翼でも気高いと言ってくれて、「純白」こそ自分にふさわしいと言ってくれた。その言葉に嘘はなかったのに終始彼女を纏う灰色の魔力。火属性なら赤色だし水属性なら青色だ、と属性ごとに魔力の色は違う。稀な無属性であっても紫色で鮮やかな色を持っている。その筈なのに…。
灰色の魔力なんて聞いたことがない。それだけではなく、エラの魔力は不安定で灰色が濃くなったり薄くなったりを繰り返している。明らかに「異端」だった。
…どうして…?先輩は、何を抱えているの?
エミーユは自分の心臓が早鐘を打つようにバクバクと音を立てているのが判った。彼女は得体の知れない何かを抱えている。それが良くないものであることは直感した。けれど、ソレと彼女に対するイメージが一致しない。今の彼女が何か危害を加えるような感じには見えない。
…何か、言ってください…!先輩!
エミーユはそんな風に願ってぎゅっと目を閉じた。
暫く音のしない間があった。講堂の外でする生徒達の笑い声が微かに聞こえてくるだけ。
先に口を開いたのはエラだ。
「…その理由は…」
エラはエミーユの手をほどく。
「秘密です」
その一言にエミーユは顔を上げた。視線の先には凛とした姿で立つエラがいた。
「私と貴方はまだ出会って間もない。私の全てを話すほど親しくはないでしょう?」
…彼に嘘をつくのはNG。だから嘘は言わないでかわすしかない。
「もし、どうしても理由が知りたいのなら…お教えしますけど」
エラはわざと視線を外し、踵を返して扉の方へ向かう。
「話しても良いと思えるくらいには親しくなってからですわ」
それだけ言い残して講堂を後にする。その背中に呆然としかけていたエミーユがハッとして後を追って声を掛ける。
「待ってください!じゃあ、先輩と仲良くなったら教えてくれるってことですか?!」
さっきまでは穏やかな時間が流れていたはずだった。けれどたったの一言で急に突き放されてしまった。エミーユはその事に驚いて焦った。余計な事を言ったのかもしれない。怒らせてしまったのかもしれない。
片翼の天使でも美しいと好きだと言ってくれた人を、急に失いそうな感覚に襲われた。姉以外で初めて出会った自分を認めてくれた人なのに。
講堂の外に出たエラの後を追って外に出たが、そこに彼女の姿はなかった。講堂の外にはまばらに歩いている生徒がいるだけだ。
「待って…」
ポツリと呟いてエミーユは校内の方に走っていった。




