第七夜 ⑤
「そ、そういえばそうだったわね…」
「…なんか嘘ついたんなら後でフォローしておけよ?」
じとーとした目でエラを見る。その視線にエラの目が泳ぐ。
…なんかやらかしたな?
こいつは本当に時ノクやってたのか?と疑問が上がる抜けっぷりだ。
「お前さ、ホントにやってたんだよな?時ノク」
「え?失礼ね。私も全ルート全スチル回収済みよ」
「にしては記憶抜けすぎじゃないか?」
「そ、そう!そうなのよ!!!」
アイザックの言葉に一瞬ムッとしたが、すぐに彼の言葉に飛び付いた。
「エラの記憶は歯抜けなの!!!」
九歳からこちらに転生しているアイザックは元の世界の自分の記憶とアイザックとしての記憶の両方をほぼ完全な状態で保有出来ているのだが、エラの方はそうではなかった。元の世界の記憶はあるがエラとしての記憶はあくまでも学園に入った一年生からのもので自らの出自に関するものはごっそり抜けており、時ノクのエラに関する記憶も虫食いのようにところどころにしか残っていないのだ。だからどう行動したらどういう未来になるのか、ざっくりとしたことしか判らない。
「それで、貴方が覚えてることを教えて欲しいのよ。こないだは途中だったでしょ?」
「ふーん…歯抜けねぇ…。つってもエラの出自なんてまともにゲームにも出てなかったからな…。わかってるのはエラは魔王の拾い子だ。そこで闇の魔力を手に入れたってことだな」
アイザックの言葉にエラの心臓が跳ねた。
…魔王の拾い子…。あとちょっとで何か思い出せそうなんだけど…。
「あとは…ああ、イオニコフルートの最終イベントについてだな」
首の後ろを掻きながらアイザックは続ける。
「前にここがイオニコフルートの三つ目って話はしたよな。真・ENDの最終イベントは魔王の城で行われるパーティーだ。…そこで、完全覚醒した魔女のエラは…リチアとイオニコフ、二人の愛の魔法で打ち倒されるってシナリオだ」
最後の言葉を聞いた瞬間、エラはゾクッと全身を駆け抜ける悪寒を感じた。
そうだった。そういう結末だった。どうして忘れていたんだろうか。エラにとって最悪の結末。それは魔女だとバレた瞬間リチア達は掌を返した事。魔女は滅ぼさなければならない存在で魔王の弱点だから。
…なんてこと…どうして忘れていたの…?いや、思い出せなかったんだもの…この結末を。
エラにとって最悪のシナリオだということだけしか思い出せなかった。具体的な内容はおろか分岐も思い出せなかったのだ。
「確か、裏切られたエラは学園に魔物の大群を呼んでその混乱に乗じて魔王城へと姿を消すんだ。で、魔王が学園を舞踏会に招待する。名指しで招待されたのが主人公だったな。後は…舞踏会に乗り込んだ主人公と魔女エラが会場で戦うって流れだな」
アイザックが先の流れも話していく。その言葉が紡がれる度にプレイしていた時の記憶が蘇る。
「エラの怨みと絶望の魔力は凄まじくて、主人公の聖女の力だけでは倒せない…そこでイオニコフが力を貸したんだ。確か他のキャラもいたはずだな。んでそいつらの魔力を主人公とイオニコフに託して二人の愛の魔法でエラは浄化されて消滅したんだったかな」
記憶を再構成し直しつつ端的に話す。
プレイ当時はこの展開に胸を熱くしたものだ。だが、同時にエラ・エーデルワイスに同情もした。
…覚えてる…思い出した。あのエンディングを最初に見た時、泣いたもの。エラがあまりにも気の毒で…。
イオニコフルートから真・ENDへの分岐以降エラの境遇は一変した。それまでは他のキャラ同様にただのキューピット役だった。盛り立てるだけのサブキャラ。だが、この分岐を過ぎるとたちまち悪役に変わってしまう。
そして今まさにその破滅への結末に向かっている真っ最中だ。
だからアイザックは攻略しろと言ったのだ。イオニコフ達を攻略することで最後に対峙する危険を避けようと言うことだ。
「どうだ?思い出したか?」
「…ええ…。思い出したわ。ありがとう、助かったわ。これで今、置かれている状況が飲み込めたわ」
魔女とバレて処刑されるなんてごめんだ。だが、きっとどうあがいても何処かでバレる運命だろう。それなら、アイザックの言うように味方になってもらえるように好感度をあげておくことの重要性がわかる。
「私、決めたわ」
グッと握り拳を作る。
「イオニコフを攻略してみせるわ!!!!」
主人公に渡してなるものか。どうせ決まっていると諦めるのもここまでだ。こうなったらとことん足掻いてやる。
そう意気込んだエラに対してアイザックは「今からかよ」と突っ込んだのだった。ついでに「どうせならエミーユもイドラも攻略しとけよ」とも突っ込んだ。




