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転生先は灰かぶり  作者: 紗吽猫
サブイベント~片翼~
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第七夜 ③

だから、好意なんてものがあるわけがない。そう思って斜に構えても仕方ないことだろう。

とは言えそんなこと、エミーユに言えるわけもないのだが。そして彼が判らなくてもそれこそ仕方ない事だ。エラは改めて深呼吸をした。


「虐められているから、です。誰が敵で味方か、なんてわかりません。親切なふりして…っていうのだってよくある話です。だから、疑ってかかるべきなんですよ。自分を守るために」


諦めを含んだ声でそう告げた。その表情がエミーユにどう写ったのかはエラには判らなかったがそれを聞いた彼はひどく痛々しいものを見るような悲しげな表情をした。

きっと彼は本当に優しい性格なんだろうなと思った。アイザックやイオニコフとも少し違うタイプだが、ゲームでのエミーユに抱く印象と実際の彼はそう差がないのかもしれない。リチアに対してだけじゃなく、本当に誰にでも優しいのだろう。それも彼が天使族だからだろうか。


「…えっと…軽率な事を言ってすみませんでした…」


エミーユがしょんぼりとする。まるで萎れた花のように元気がなくなる。本当に目に見えて感情が判りやすいキャラだ。

エラは仕方ないな、といった溜息をついて努めて明るい声でフォローを入れた。


「…ミッドナイル様に悪意がないことは判りました」


まだ眉は八の字に下がったままだがエミーユはエラの顔色を窺う。向けられる表情は怒ったものでも悲しんでいるものでもなくただ、なんとなく兄弟に向けるような親しみのある「しょうがないなぁ」といった顔。エミーユはその表情に懐かしさを覚える。


「…」


「…?何ですか?じっとひとの顔を見て…」


エミーユが黙ってこちらを見つめてくるのでエラは内心ドキッとした。綺麗な顔で見つめられるのは心臓に悪い。


「…先輩って…なんだかお姉ちゃんみたいですね」


「…はぁ?」


照れたようにはにかんでエミーユがそう言うので驚いたエラはすっとんきょうな声が出た。何言ってんだこいつ。


「あ、えっと、さっきの表情が…姉がよくしてた顔にそっくりだったので…」


慌ててそう取り繕った。

…エミーユの姉、か。そういやエミーユルートで少し出てきたっけ?


エミーユは天使族でありながら生まれながらの片翼で一族からは落ちこぼれと言われていた。そんな中でも彼の姉は優しく片翼のエミーユを包み込むような人だったはず。だからエミーユも姉には懐いていた。


「…お姉様がいらっしゃるのですか?」


「え?あ、はい。いますよ!すごく優しい姉が」


自慢気に笑ってそう言うエミーユ。本当に大好きなんだな。


「…お姉様のことが大好きなんですね」


「はい…!!」


本当に嬉しそうにそう言うものだからエラはさっきまでの少し荒んだ心が洗われるようだった。根っこから良い子なんだろうなと感じる。基本的に攻略対象はリチアを優先するものでエラとはほぼ接点を持たない。だからどうしても警戒をしてしまいがちだった。アイザックはいざという時の為に味方を増やしておけ言っていたがそんな簡単な話じゃないと言う気持ちも確かにあった。けれど、目の前で可愛い笑顔を見せる彼には裏表も無いように見えた。

これなら、イオニコフのように好感度を上げていくことが出来るかもしれない。いざという時の為に。


「先輩は兄弟いないんですか?」


不意にそう話し掛けられてエラは目を丸くした。


「兄弟?」


そう言えば、どうなんだろうか。エラの体に残る記憶は曖昧で学園に来てからのものだけだった。まるで霧がかかったように学園以前の出自に関する記憶がごそっと抜けているのだ。設定がなされていなかったからなのか、魔力が封印されていたことと関係があるのか…原因は不明だが紗夜が持つエラの記憶は不完全だった。家族に関する記憶もないのでこの質問に正しく答えることは出来なかった。


ニコニコと微笑みながら訊ねてくるエミーユにエラは少し悪い気がしながら適当に答える。


「…いませんわ。だから憧れはしますね」


「…本当にいないんですか?」


エラの解答にエミーユは質問で返した。エラは思わずドキッとした。まさか、知ってて聞いてきたのか?だが、接点はなかったはずだし…。

一瞬の不穏な空気にエラは冷や汗をかいた。ゲームのように選択肢が出てきてくれれば正解の解答も出来たのだろうけど、現実にそんな選択肢は浮かんでこない。解答が間違えたのかも正解だったのかさえ判らないものだ。


…失敗したかもしれない…。好感度が一気に下がってマイナスになってたりして…。

ここは一旦引いて攻略を立て直したいとエラがこの場離れようとした時、午後の授業開始を告げる昼休み終了の鐘の音が響き渡った。


…グッジョブ!チャイム…!!

思わず心の中でガッツポーズをした。これ以上は悪手ばかりしかねないので切り上げてしまおうと思っていたところにこのチャイム。ナイスタイミングだ。エラはエミーユに挨拶をしてその場を去ろうとした。その背中に声が掛かる。


「先輩…!!」


エラは教室へと向かい始めていた足を止めてエミーユのいる方向へ振り向く。


「あの、名前…名前を教えてもらっても良いですか?」


この質問にきょとんとしたエラだが、そこでようやく自分が名乗っていないことに気が付いた。すっかり忘れていた。


「エラ・エーデルワイス、です。ですが、あまり私に関わられない方が身のためですわ。何せ私は灰かぶり。下手に関わると貴方が周りに何を言われるか判りませんから」


イオニコフにも言ったことのある言葉を投げる。これが効果があったのかは正確に判らないのだが現在の彼の中の好感度は高めのようだし、エミーユの好感度を上げるなら似たような台詞を使うのも手だと考えたのだ。


これが吉と出るか凶と出るか。


「…」


エミーユの反応を窺いつつ、けれど答えが返ってくる前にエラはその場を再度離れようとする。ジャリ…と音が鳴り、エミーユはハッとした。エラの後ろ姿が見えた。さっきまで普通に話していたはずなのに急に突き放された気分だ。と、それよりも自分も教室に戻らなければいけない。エミーユは慌てて後を追いかけた。



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