第六夜 ⑧
「…ねぇエラ」
「はい。何でしょう?」
「ここへはお礼と謝罪に来たって言ってたね。…それなら…彼は?彼も一緒に…?」
手を腰に当て少し体勢を崩したイオニコフは口を尖らせた。じとーっとした視線。エラはそんなイオニコフにきょとんと首を傾げる。
…え?何?何か急に不機嫌になった…?彼って…アイザックの事よね?
急に機嫌が悪くなった。そう言えば機嫌が悪かったのはイオニコフがここに現れた時からだった。アイザックがこの場を去ってエラがクッキーを渡した辺りで機嫌が直ったような…。
「えっと…一緒に来たわけではありません。アイザックも…心配してくれていたようで見掛けた私の様子を見に来てくれたようです」
実際は細かく言えば少し違うのだが、お互いが転生者同士だったからゲームの記憶を擦り合わせたり情報の共有をしてました、などど言えるはずもないので当たらずとも遠からずといった感じで話す。
だが、納得しかねるのかイオニコフはまだじとーっとした目をしている。
…?何か駄目だった?こういう時、ゲームみたいに選択肢があればいいのに…。
一口に攻略しろと言われてもゲームのように選択肢が出たりするわけじゃない。それに操作キャラクターは今まではリチアだったわけだ。主人公と友人Aとじゃ同じ選択肢でも反応は全く違うことだろう。
…じゃ、選択肢なんかあっても意味ないか…。
となると一から考え直してみるのもいいかもしれない。
どうやらイオニコフはエラに対して好感度があるようだ。今にして思えば度々助けてくれたりリチアではなくエラの方に来てくれたりとそれなりに好感を持ってくれているように思える。リチアを引き合いに出すと不機嫌になるし、今回はアイザックのことになると不機嫌になった。つまり、自分ではない誰かを引き合いに出されると不機嫌になる、ということだろうか。
「え、と、ここはオーデルセン様?何か、問題がありましたか?非礼がありましたら仰ってください。お詫び申し上げます」
エラは頭を下げる。ひとまず、彼の機嫌を損ねた明確な原因を探ろうとした。
「…頭、下げなくていいよ。別にキミが悪いんじゃない。…ボクの問題だ」
はぁ、と溜息を吐きながらイオニコフは自分の顔を手で覆う。なんだか自分で自分に呆れているようだ。
「?」
エラは頭の上にハテナを飛ばす。どういう意味だろうか。首を傾げる彼女を見ながらイオニコフは小さく息を吐く。そして言おうかどうか少し悩んだ後口を開いた。
「…さっき、彼の名前を…呼んでいたじゃないか」




