第六夜 ⑦
「ちょ、ちょっと、待って…お礼?ボク何かしたかな?」
女の子に頭を下げられた事に驚いたのか、それこそ初めて目にする行為だったのかさっきまで冷たい眼をしていたイオニコフは慌てて顔を上げさせようとした。
「…い、いえ、私…オーデルセン様には沢山助けていただいていますし、先日の林間学校でだって…ご心配もお掛けしてしまったようで…なんとお詫びしていいのやらで…」
すぐには受け取ってもらえなかったので顔を上げながら紙袋を持っていた腕を下ろす。その事にエラは動揺する。やはり、私では駄目なんじゃないか?
「そ、それで、せめてものお詫びと感謝をとクッキーを持ってきたのですが…すみません、迷惑でしたね…」
話していて徐々に声が震えてくる。視界も少し滲んできた。それを悟られないようにと視線を外し、俯く。その為、イオニコフの表情や反応はわからない。
…やだ…。私、いつからこんな涙脆くなったの?
魔女への半覚醒を経て、絶望の淵に立たされ学園から逃げ出そうかと思った。そしたら味方なんて有り得ないと思っていたのにアイザックが現れた。だからだろうか。こんなに涙脆くなったのは。張っていた緊張の糸が切れてしまったのかもしれない。
沈黙に堪えられそうになかったエラはすぐさまこの場を逃げ出そうと考えた。ジャリ…と地面を踏みしめ体の向きを変えようとした時だった。
エラが持っていた紙袋をひょいとイオニコフが取り袋を開けて中にあるクッキーを取り出す。エラは驚いてただその様を眺めた。
「へえ…可愛いラッピングだね。これはエラが?」
「え、ええ…そのままじゃ…味気無いと…」
「そっか…。うん、ありがとう。貰うね」
ふわっとした笑顔でエラに笑いかけるが、 当のエラは何が起きているのか判りかねていた。
涙が引っ込んだが困惑した様子のエラを見てイオニコフは少しクスッと笑う。それから、彼女に近づいて手を取った。エラはこの行為に心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
「…火傷、まだ痛むかい?噛まれたところも…」
身を案じる優しいトーン。本気で心配してくれているのではないかと期待したくなる暖かな眼差しだ。それと同時に包帯が巻かれたエラの体を見ると痛々しいものを見るようなそんな表情になる。
…心配?魔女だってバレたんじゃ、ない…?知ってて何も言わないの…?
肝心なことが判らないままだが、それでも彼を攻略しろと言っていたアイザックの言葉を試してみようかと思える反応だった。
「…大丈夫です。私が気絶した後、皆さんが手当てしてくださったのでしょう?お陰様でこの通り、自由に動けます」
その場でくるりと回って見せる。手もグーとパーを繰り返して見せた。その様子を見たイオニコフはホッとしたような安堵の表情になった。
「そっか。それは良かった。安心した」
目を細めてそういう彼を見てエラは少し警戒を解いた。
…アイザックが言っていたみたいに…好感度って…あるっぽい…?




