第六夜 ⑥
その声が聞こえるなり辺りに強い風が吹き荒れた。突然の強風に二人は思わず目をしかめる。
サク…と草を踏みしめる足音が近づいて来て二人はそっと近づいてきた人物を見上げる。そこに立っていたのは…。
漆黒の髪が風に靡く姿に思わず見とれてしまいそうになった。
「オーデルセン様…」
…相変わらずの二次元っぷりだわ。
キラキラとこもれびが漆黒の髪を輝かせ、エラやアイザックの周辺に吹き荒れる強風とは違いイオニコフの周辺を吹く風は穏やかなもの。まるでその風はモデルを使った写真を撮る為に吹いているようなそんな絶妙な風だった。今この瞬間を切り取った写真があれば女子達がこぞって買い漁ることだろう。
だが、そんなのんびりしたことを考えていたがよくよく彼の顔を見るとなんとも冷たい目をしていた。冷え切った視線。
…ど、どうして?怒ってるの…?まさか…やっぱり魔女だってバレてて…。
そんな恐怖が頭を過ぎる。縋るようにアイザックの方を見ると、視線に気付いた彼はニカッと笑って立ち上がる。それに驚いてポカンとした顔になるエラの頭を軽くぽんぽんと撫でてイオニコフの横を横切る。
「じゃあ、そーゆー事で!頑張れよ!」
ひらひらと手を振りながら去っていこうとする。
「じゃあ、って…ちょっと!アイザック…!!」
エラは咄嗟にアイザックの背中に手を伸ばしたが空を掴むだけだった。けれど彼もそんな彼女に気付いたようで口パクで「好・感・度」と言った。それから手をグーの形にして親指を立てる。それからウインクも。ビシッと決めてくる。そんな彼にエラはポカーンとしてしまった。こっちの世界では馴染みのない合図だが、エラは元の世界では意味のある合図だと知っている。しかし実際に使っている人間は周りにいなかった。
拍子抜けしている間にアイザックは行ってしまった。その際、イオニコフは軽くアイザックを睨んでいた。
サァ…と、風が吹き抜けていく。
エラは機嫌の悪そうなイオニコフと二人きりになり、空気の重さにどっと冷や汗が吹き出した。
…ど、どうしよう??アイザックはイオニコフに好感度があるって言ってたけど…それにしては機嫌が悪い気がするし…。やっぱり魔女だってバレたんじゃ…。いやいや、でも何度も助けてくれたのは確かだし…ここに来たのだって…。
正直に言えば怖い。アイザックはああ言っていたがやはりここはゲームの世界なんだと思う。だから圧倒的に分が悪い。
黙ってこちらを見てくるイオニコフの顔色を窺いながらエラは勇気を振り絞った。
「あ、あの…ッ!これ…ッ!!」
エラはバッ!と、勢いよくクッキー入った紙袋をイオニコフに突き出した。イオニコフは目の前に紙袋を突き出されて驚き後退る。そんな彼を見ることなくエラは紙袋を突き出したまま頭を下げた。
「ありがとうございました…ッ!」
「え?」
突然のお礼と頭を下げる行為にイオニコフは困惑した。




