第六夜 ⑤
「………」
押し黙るエラをちらりと見やりながらアイザックは話を続ける。いちごミルクが入っていた紙パックをゆらゆらと揺らして遊びながら。
「当然、広場に戻ってた奴らはパニック状態だ。灰かぶりの逆襲だ!ってな。それを黙らせたのが英雄様だったんだよ」
エラは思わず目を見開いた。
…イオニコフが…?まさか…。
「エラは人を呪ったりしないとな。日頃の行いが悪い人間に罰を下すとすれば精霊達だろう、だとよ。素行が悪いと呪われることがある、と英雄様直々に言い放ったんで誰も頭が上がらずにもみ消されたっていう話だ。それに、そいつらが呪われたって言って見せた部分になんの変化も無かったから、狂言扱いになったってわけさ」
だから広場に戻ってきた時に誰も何も言わなかった。イオニコフが味方になってくれたのだ。
それを知ったエラは心に暖かいものを感じだ。もしそうならば尚更、お礼をしなければ。
「そう、だったのね…。あ、でもその浄化作用?って聞いたことないんだけど…」
「当たり前だろ。そんなもんねーからな」
その一言にエラは驚きにあまり固まる。
「…はぁ!???じゃ、イオニコフが言ったのは…」
「口から出任せだな。つまりそうまでして庇ってくれたって訳だ。どう見てもお前の事気に入ってるだろ?森が燃えてた時だって聖女様じゃなくてお前を抱えて戻ってきたわけだしな」
「そ、それはそうだけど…。でも、私を気に入ってるなんてそんな事…」
あるわけが無い。そう思うエラはそれでも何処か期待する気持ちもある。ぎゅっ…と、スカートを握る。それでも魔女としての半覚醒した身である事が影を落とす。
「……」
浮かない顔のエラにアイザックは不敵な笑みを浮かべる。そしてポンと彼女の頭の上に手を置いてこう言った。
「エラさんや、目下の目標は英雄様を攻略するこった」
……は?
エラは何故頭の上に手を置かれているのかも、その言葉の意味も理解出来ず「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな何とも言えない表情になった。
その表情にアイザックはちょっと傷ついたかのような顔で渇いた笑いが漏れた。
「ははは…。んな顔すんなよ…。けどな、これはお前の身を守るためでもあるんだぞ?」
「…何処が…?彼に下手に近づく方が危険じゃない?」
しらーとした目でそう訴えるエラにアイザックはわかってねーなぁといった仕草で返す。
「だからだろ。お前に対する好感度は存在する。それならお前が魔女だと本格的にバレた時用の味方は必要だ。けど、俺じゃぁ影響力無さすぎるんでな。英雄様くらいの人望は必要不可欠ってこった」
「そ、それはそうかもしれないけど…でもエラに対しては好感度なんてないと思うのだけど…」
頑なに認めようとしないエラにアイザックは思わずため息をついた。
「お前なぁ…」
アイザックが頭の後ろをポリポリと掻きむしりながら言葉を続けようとした時、話に割って入ってくる声が聞こえた。
「…二人で何してるんだい?」




