第六夜 ④
アイザックはきょとんとした顔をしていたので、かくかくしかじかとエラが状況を説明すると彼は声がひっくり返るくらいに驚いた。
「はぁ…!?既に魔女の半覚醒イベントが発生しただと!?」
ガバッと勢い良くアイザックはエラの眼前に乗り出した。エラはその距離の近さ勢いに思わず身を後ろに反らせる。唾が飛んで来る距離感だ。
「お前…何やってんだ!!つーかイベントが起こるには早すぎるだろ!!そもそも聖女様と英雄様はまだそんなに好感度条件高い訳じゃねーぞ!?」
そんなことは判っている。だから一人で頭を唸らせていたわけだ。
「判ってるわよそんなこと!!でも実際そうなんだもの!…これは、おそらくだけど私がリチアよりも先にイオニコフと出逢ってしまったから…じゃないかと…多分、そこからシナリオが狂っていったんだと思うわ」
「はん?っつーことは…なんだ?だからか、なるほどな。…ようやく謎が解けたわけだ」
「…謎…?」
首を傾げるエラにアイザックが答える。
「いや…俺が転生したのはこっちの年齢で九歳の時なんでな、魔法学園に入学した当時から各キャラクターを見てきたわけだが、春休みに入る前と二年生に上がった新学期以降とじゃお前のキャラ…エラ・エーデルワイスの性格が全然違ったんだよな。それがずっと疑問だったんだわ」
…そっか…。やっぱそう見えるわよね。
本来のエラは内向的な性格で虐められて陰で泣いているような子だ。それにしては今のエラは堂々とし過ぎている。一年生時を知っている人々からすれば不気味そのものな変貌ぶり。
「そっか…なるほどな。確かに…有り得るな…」
「え?」
「ほらよ、出会ったんだろ?英雄様と。本来出会うべき聖女様よりも先に出会ったことでシナリオが変わった可能性はある。となればこれまでにいくつかのイベント展開が変わってた事も説明がつく。変だと思ってたんだよな。シナリオじゃ英雄様とエラの接点はほぼ無いはずだからな」
ポリポリと首の後ろを掻きながらアイザックは話す。
「そうね…不思議とイオニコフが構ってくるのもその辺が理由だったりー…なんて…」
あははと苦笑いをしながらエラは有り得ない体で話したが、アイザックの反応は違った。
「ん?そらそうだろ?英雄様にとっちゃ目が覚めて一番最初に関わった相手がお前なんだし」
目から鱗だった。エラが悶々としていた事をアイザックはサクッと肯定して見せた。
「いくらこの世界がゲームであってもこの世界の住人にとっちゃこれが現実だからな。ある程度補正が掛かろうとも変化することはあるって事だろ。…はたから見たらあの英雄様はお前の事、随分と気に入ってると思うぞ」
「ま、まさか…そんなことあるわけが…」
アイザックの言葉にエラは動揺する。だってこれはリチアのための世界でエラは嫌われ者の魔女で…。
「信じられないならこれはどうだ?さっき半覚醒イベがあったって言ってたがそれは林間学校の宝探し授業の最中じゃなかったか?」
「え、ええ、そうよ。…それが?」
「その時、クラスメイトが何人か居合わせただろ?」
当たっている。まさかアイザックはその場面を見ていたのだろうか?そんな考えが頭を過ぎった。
「ど、どうしてそう思うのよ?」
「そりゃ、広場に戻ってきた奴らが大騒ぎしてたからな。灰かぶりに呪われたってさ」
その一言にエラは背筋が凍った。顔も青ざめる。やはりあの時の生徒は騒ぎ立てていたのだ。魔女であることもバレているのかもしれない。だが、だとしたら何故、誰も何も言ってこないのか。処刑にもならないのだろうか。そんな疑問が頭に浮かぶ。
その答えを彼なら知っているのだろうか。




